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【市況】「原油関連株の上昇が示唆する金余り相場のうねり」<東条麻衣子の株式注意情報>

日経平均 <日足> 「株探」多機能チャートより

■下落要因

 2月の株価調整を懸念する声が高まっている。確かに、米国市場を筆頭に日経平均株価も1月末にかけて上げ一服の動きとなった。

 ここへきての下落をもたらした要因は、米国でのロビンフッダーと呼ばれる個人投資家による集中投資を震源とする金融市場の混乱が警戒されたものだが、ファンドによるリバランスの動きも大きかったのではないか。

 例えば、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)。GPIFが定めた2020年4月1日から5カ年における基本ポートフォリオ(積立金の基本となる資産構成割合)では

     資産構成割合  乖離許容幅
国内債券   25%      ±7%
外国債券   25%      ±6%
国内株式   25%      ±8%
外国株式   25%      ±7%

を基準にして運用を行うとしている。

 日本株式、海外株式のそれぞれの構成割合が25%の基準から大幅に逸脱するのを防ぐため、株式の構成割合が増加するとこの基準を維持するためにバランス調整の売りを行っている。

 こうしたリバランスの動きはGPIFに限られたことではなく、通常ファンドが行っていることであり、今後も株式市場が大きく上昇した際には月末にかけて売りが出てくるだろう。

 今回はそこにロビンフッダーによる需給問題が浮上したことで、月末にかけて調整が大きくなったと筆者は考えている。

■物色意欲

 日本には石油備蓄法令が定められており、石油精製業者には日本の石油消費量の70日分の備蓄が義務づけられている。原油価格が上がれば石油精製業者の在庫評価損益にプラスに働くことから、 原油価格が上がれば石油精製業者(ENEOSホールディングス <5020> など)の株には買いが入りやすくなり、石油精製業者の株価と世界の原油価格の指標であるウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の動きは相関性が高い。

 石油・石炭のセクターで最も出来高の多い石油精製業者であるENEOSの株価は、このため長くWTIと連動する動きを辿ってきたが、昨年に関しては相関性が低かった。

 昨年のWTI原油価格とENEOSの株価の動きを追ってみよう。昨年4月にWTI原油価格が-40ドルと史上初のマイナスに急落したその日のENEOSの終値は365円であった。一方、12月30日のWTI原油価格は48.4ドル、ENEOSは370円となっている。

 4月の原油価格の大暴落の影響を受けたであろうENEOSの株価は、年末にWTIが50ドルに迫る中でも上値の重い状態が続いていたのである。

 この要因の一つに、ESG(環境・社会・企業統治)投資があると筆者は考えている。

 昨年、日本の機関投資家である第一生命が外国株での運用を全てESG投資に切り替えると発表し話題となったが、ESG投資は着実に広がりを見せている。

 ESGの評価軸の一つである「環境」には地球温暖化対策が含まれており、温室効果ガスとの関係性が深い石油精製業者はその投資対象から外されて買いが入りにくい状況だったのではないだろうか。

 ところが今年に入り、突如としてENEOSとWTI原油価格との相関性が再び高まりはじめ、1月4日~29日の業種別騰落率では石油・石炭がプラス13.35%と最も上昇率が高い。

 昨年のENEOSの上値の重さが筆者の想定するESG投資に起因するものだとすると、WTI原油の上昇に歩調を合わせた今年のその動きは、「ESG」を度外視してでも投資対象を物色していることの表れではないのか。それだけ金余りを背景に運用せざるを得ない資金が待ち構えていると見てよいのではないだろうか。

■PER

 バブル時代には成長株であればPER70倍超も妥当とされて、日経平均株価はおよそ3万9000円まで上昇した。

 それを考えると、日経平均株価の主要構成銘柄でもあるファーストリテイリング <9983> などはPER70倍に買われてもおかしくないといえるかもしれないが、同銘柄の調整後PER(株価÷調整後一株あたりの純利益)は1月末時点で100倍を超えており、指数寄与度の高い銘柄の買われ過ぎ感も否めない。

加えて、昨年3月から10カ月もの間、押し目らしい押し目も無く上昇し続けたのであるから、多少の調整があってもおかしくはないとは思う。だが、石油精製など原油関連銘柄の動きを見ても、金余り相場による物色意欲は未だ継続しているように見える。

 これらを踏まえると、全般市場を表す指数の調整はあるかもしれないが、個別では物色意欲の強い展開が続くのではないか。

 まだまだ低水準とはいえ、米10年債利回りは1%を超えて推移している。1%を切るような最悪期は過ぎたと考えれば、金利上昇がメリットとなる銀行や生保といった銘柄には注目したい。ただし、VIXは高止まりしており、不安定に上下動が続くことも考えられる。このため、一気に買うのではなく、少しずつ買い下がるのが良策ではないだろうか。

(2021年2月1日 記)

◆東条麻衣子
株式注意情報.jpを主宰。投資家に対し、株式投資に関する注意すべき情報や懸念材料を発信します。

株式注意情報.jp http://kabu-caution.jp/
Twitter https://twitter.com/kabushikichui

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