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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―コロナの人為性を考察する-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第36回 コロナの人為性を考察する

●事態の悪化に歯止め

 6月5日に発表された5月米雇用統計が市場予想と異なるものになりました。非農業部門雇用者は3月に137万人減少、4月には2069万人減少しました。5月は市場予想が750万人減少でしたが、実際は250万人増加になりました。失業率は2月の3.5%が4月には14.7%に急上昇しましたが、5月は13.3%に低下しました。米国政府が6600億ドルの枠を設定して雇用維持を条件に資金供給を行っているため、企業が制度を利用して労働者の就業を増加させたことが原因と見られています。

 日本で6月8日に発表された5月景気ウォッチャー調査では、景気の現状判断DIが過去最悪を記録した4月の7.9から15.5に上昇しました。水準は依然として極めて低く、飲食や小売りを中心とする街角景気は極めて低調ですが、事態の悪化にはとりあえず歯止めがかかったことが確認されました。

 株式市場では米国での感染が拡大し始めた2月下旬から暴落と表現できる株価変動がグローバルに進行しました。コロナウイルス感染拡大という出口の見えない未体験トンネルに突入して、恐怖心が一気に拡大したことが背景でした。各国株価指数は1カ月で3~4割下落するという歴史的暴落に見舞われたのです。

 株価変動が急変したのが3月下旬です。米国のトランプ大統領が2兆ドル(約220兆円)超の経済対策を一気呵成に成立させました。日本の経済対策と異なり、米国の経済対策規模は数値がそのまま真水であるという特徴があります。同時にコロナウイルスの新規感染者数の増加に歯止めがかかり始めたことが確認されたのです。

●際限なき株価上昇はない

 株式市場は現在ではなく未来を織り込む傾向を有します。市場はコロナウイルスの感染拡大の真っ只中にあっても感染者数の増加速度の鈍化が生じたことを見逃しませんでした。また、巨大な経済対策決定にも素直に反応しました。そして、6月5日には市場が予測できなかった雇用統計数値の改善が表出しました。これによって反発途上の株価が勢いをつけたのです。

 各国の株価戻り率は8割を超えました。韓国では9割を超す株価復元が実現しています。現在の世界経済には超金融緩和政策によってもたらされている過剰流動性が存在します。この流動性が少しでも高いリターンを求めて瞬時に大移動しています。そのために株価変動の振幅は大きくなり、株価下落のスピードが極めて速いことの裏返しの現象として急激な株価反発も生じるのです。

 しかし、株価上昇が際限なく続くわけはなく、行き過ぎればその反動も生じることになります。6月9-10日のFOMC後にパウエルFRB議長が会見を行いました。パウエル氏は経済の先行きに対して強い警戒感を保持していることを表明しました。FOMCでは経済成長率や失業率などの見通しと共にFOMC参加メンバーのFFレート見通しも示されました。

 公表データは、すべてのメンバーが2021年末までゼロ金利政策を維持するとの展望を持ち、大半のメンバーがその状態を2022年末まで維持すると見通していることを明らかにしました。FRBが経済のV字回復を想定していないことが明確になりました。

●日本のコロナ対応評価

 相場の過熱感が強まっていたこともあり、NYダウは6月9日から下落に転じ、11日には1861ドルの下落を演じました。筆者が執筆しているレポートが想定した株価調整が現実化しています。ただし、2月以降、株式市場のボラティリティーが高まってきたため、現時点ではまだ方向感を明確にすることには慎重であるべきと感じます。

 最大の問題はコロナの行方です。人口100万人当たりのコロナ死者数を見ると欧米と東アジアに百倍の差が観察されます。安倍首相や麻生財務相は日本の人口当たり死者数が少ないことをもって日本政府の対応や日本の国民の民度を自画自賛していますが、まったく的外れです。日本の人口当たり死者数は欧米と比較して少ないですが、東アジアでは多い方のトップグループに属しています。

 東アジアでの死者数が抑制されている理由が考察されています。生活様式、BCG、ウイルスの種類、免疫の有無などが仮説として提示されていますが、まだ事実は判明していません。被害軽微の状況が持続するのか、それとも、強毒性ウイルスによる感染被害拡大が東アジアでも広がるのかどうか。判明していないため、リスクに備える必要性が存在します。

 以前も指摘しましたが、昨年10月にNYでコロナウイルス感染拡大のシミュレーションが実施されています。今回の騒動はシミュレーションの実写版と言っても過言ではありません。

●利益の源泉になる洞察力

 コロナウイルス感染拡大は11月に実施される米国大統領選に強い影響を与えています。表舞台に立つ機会が増えるからトランプ大統領に有利だとの見方もありましたが、コロナの影響で米国経済が深刻な不況に突入したまま大統領選を迎えると現職大統領には不利に働く可能性が高いと考えられます。

 黒人男性が警察官の暴行によって殺害された事件を契機に差別是正を求めるデモ活動が広がっていますが、トランプ大統領は「略奪には銃撃で対応する」と述べて批判にさらされています。米国の「分断」か、再「統合」かを問う大統領選になる可能性が高まりつつありますが、事態の推移はトランプ大統領にとって不利に働いている傾向が強いように感じられます。

 コロナに何らかの人為的な背景があり、感染拡大が過大に演出されているとするなら、事態の推移や金融市場変動のなかで巨大な利益を獲得する勢力が存在してもおかしいとは言い切れなくなります。こうした仮説を立証することは極めて困難ですので、突き詰める意味はありませんが、金融市場にかかわる人々は、こうした「策謀」工作が金融市場変動の裏側に潜んでいる可能性を頭の片隅に置いておく必要があります。

 逆に言えば、仮に適正な推理力を働かせることができれば、そのことによって大きな投資利益を獲得することも不可能ではなくなると言えるでしょう。投資手法が多様化している現代の金融市場においては、株価下落局面であっても巨大な利益を獲得する多くの機会が存在していることを見落としてはなりません。

(2020年6月12日記/次回は6月27日配信予定)


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