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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―コロナ問題の本質を見極める―

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第47回 コロナ問題の本質を見極める

●米国大統領選の勝者

 前回の本コラムタイトルを「誰が大統領選の勝者か」としました。その真意は、米大統領選の真の勝者は中国ではないかということにありました。トランプ大統領は中国に対して激しい貿易戦争をしかけました。中国は当初、米国の要求を従順に受け入れていましたが、途上で対応を大きく変えました。2019年5月のことです。

 予定されていた閣僚級会合の直前にトランプ大統領が中国からの輸入2000億ドルに対して25%の制裁関税を発動する方針を突然ツイッターで発信したのです。中国は政府への技術移転を禁止する法律を制定するなど、米国の要求への対応を真摯に進めていました。中国が示す誠意に対してルール無視で要求をエスカレートさせるトランプ大統領の行動を踏まえて中国は基本方針を転換したのだと思います。

 中国は閣僚級会合をキャンセルしませんでしたが、予定されていた日程を1日先送りして対応しました。これ以降、中国はトランプ大統領に対して持久戦を辞さない構えを明確にしたのです。中国は米中の政治基盤の安定性を考察したと思います。対米持久戦に持ち込み、トランプ大統領の退場を誘導する。これが中国の基本戦略になったのだと推察します。

 2020年大統領選でトランプは敗北したと見られます。依然として敗北を宣言していないので12月14日の選挙人投票まで確定しないのですが、トランプ退場が確実視されています。そうであるなら、中国は見事に所期の目的を達成したことになるのです。

●コロナ感染の再拡大

 日本政府が中国から学ぶべきことが多くあります。トランプ大統領が居丈高に要求をエスカレートさせた場合、日本政府なら要求を丸呑みしたでしょう。トランプが要求する通りに高額な米国製兵器購入を次から次に約束させられた安倍外交の実績を見れば一目瞭然です。しかし、これでは国益を守ることはできません。

 米国大統領選後、内外株式市場で株価が反発しました。その背景として、(1)トランプ退場の見通し、(2)コロナワクチンの治験進展、(3)米国巨大企業に対する増税実施の可能性の低下、を金融市場が好感したと推察できます。トランプ大統領としては選挙前にワクチン開発進展のニュースに接したかったことと思います。そうではなかったところに、コロナの作為的側面が強く感じられます。

 コロナ・パンデミックがなければトランプが再選を果たしていた可能性は十分にあったと思います。この意味でコロナ・パンデミックが果たした役割、効果は極めて大きなものだと言えるでしょう。そのコロナが北半球の向寒に連動して、再び猛威を強めています。

 日本も例外ではなく、新規陽性者数の急増が確認されています。11月27日の東京都の新規陽性者数は570人で過去最大になりました。日本のコロナ騒動が再び急拡大しています。感染拡大は東京だけでなく全国に広がりを示しているのが今回の特徴で、ここ最近の一日当たりの全国新規陽性者数はすでに2500人を超える水準に達しています。

●先行き不透明感の強まり

 菅内閣は新型コロナ感染症を第2類相当指定感染症に区分しています。この区分に伴う医療および事務負担が極めて大きなものになっています。医療機関の対応能力には限界があり、新規感染者が増加すれば医療崩壊が発生するリスクが高まります。

 大阪や北海道ではステージ3に到達し、GoToトラベル事業の目的地から除外されました。東京都が完全にステージ3に移行するのは時間の問題で、そうなれば政府のコロナ分科会は東京都をGoToトラベル事業対象地から除外することを強く勧告することになると思われます。

 ところが、菅内閣がこれを拒絶する可能性が想定されています。GoToトラベル事業の最大の推進者が菅義偉首相であり、菅氏が東京都のGoToトラベル事業からの除外に強く抵抗していると見られるのです。しかし、GoToトラベルによる人の移動拡大が感染拡大の主因のひとつになっていることは疑いようがなく、新規陽性者数の増大に伴い、菅内閣への圧力が急拡大することは確実と思われます。

 対応が遅れるほど、より強い措置が必要になり、年末年始にかけてのサービス産業の業況に重大な影響が発生することが想定されるのです。

 内閣支持率は急落し、政策対応の混乱が経済の先行き不透明感を急速に強めてしまう可能性があります。

●混乱拡大は必至か

 データを精査すると、東アジアのコロナ被害が著しく軽微であることが判明します。東アジアの被害を軽微にしている要因を山中伸弥教授が「ファクターX」と表現しましたが、ファクターXの有力な候補が遺伝子研究者から提示されています。

 9月30日のネイチャー誌に掲載されたもので、コロナ重篤化をもたらす遺伝子多様体がネアンデルタール人によってもたらされたものであるとの仮説です。この遺伝子多様体を保持している人が重篤化しやすいとしているのですが、その分布が南アジアと欧米に限定され、東アジアとアフリカでは確認されないというのです。

 何らかの要因によって日本、中国、韓国、台湾での人口当たりコロナ死者数は極めて限定されています。日本で重篤化するのは高齢者、基礎疾患を持つ人に集中し、高齢でない健常者が重篤化する事例は極めて限定的になっています。

 第2類相当指定はすべての軽症者、無症状陽性者に対しても隔離措置などの対応を必須としており、このことが医療資源などの逼迫をもたらす重大な要因になっています。この部分の是正が行われれば、コロナ問題の展開が急変する可能性があると思われます。

 現状では第2類相当指定を維持しながらGoTo事業を全面推進しているため、さまざまな問題が拡大することが想定されます。市場変動予測と投資戦略構築に際しては、この現実を念頭に置くことが必要になっています。

(2020年11月27日記/次回は12月12日配信予定)

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