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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―春の乱気流相場は一巡するか―

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第55回 春の乱気流相場は一巡するか

●春の乱気流相場全開

 筆者は会員制レポートの1月25日号タイトルに「高値波乱局面」と記述しました。そして3月1日号、3月15日号に「春の乱気流相場」と記述しました。この言葉が驚くほどにマッチする市場変動が続いてきました。日経平均株価は1月下旬以降、1350円=4.7%下落、3085円=11.2%上昇、2406円=7.8%下落、2177円=7.7%上昇、2106円=6.9%下落の乱高下を繰り返してきました。文字通りジェットコースターの様相を示しました。

 日経平均は1月14日に2万8979円の高値をつけたのですが、その後は2万9000円を振り子の軸にして、2万7629円から3万0714円のレンジ内で上下変動を繰り返しています。「暴落」ではなく、あくまでも「高値波乱」です。

 週が明けると新年度取り引きが始まります。配当権利落ちでの株価下落分を穴埋めできるのかどうかが最初の焦点になります。乱高下はしても暴落はしない。その理由はどこにあるのでしょうか。本コラムでも指摘してきましたが、株価を支えるたしかな要因が存在していることが基本的に重要です。

 株価を支えている3大要因は、(1)巨大な経済政策、(2)コロナ収束期待、(3)実体経済の改善です。たしかな株価支持要因が存在しています。筆者は昨年10月12日のレポートタイトルに「過剰流動性バブル」の表現を使いましたが、バブルが生じているのは「流動性」の部分です。株価がバブルという状況では、まだありません。

●PER25倍の示現

 筆者は日経平均のPER(株価収益率)が25倍水準に上昇しても不自然ではないと指摘してきました。日本企業の利益水準を基準にPER25倍を算出すると、日経平均は3万円台半ばにまで達します。仮定計算上、この水準への株価上昇が生じても不自然ではないと指摘してきました。

 しかし、長い間PERは15倍前後の水準に位置し、このPER水準が「国際標準」だとする主張が金融市場では多かったのです。PER25倍などあり得ないとする自称専門家が多かったのです。ところが、現実に日経平均のPERは25倍水準に達しました。この株価水準は「不当な高値=バブル」と表現するべきなのでしょうか。ここがポイントになります。

 PER25倍は利回りに換算すると4%になります。企業の1株当たり利益が株価の4%に相当します。企業が生み出す利益は配当で分配されても、内部に留保されても株主に帰属するものです。ですから、適正な株価水準を判断する際には配当利回りではなく、益利回りを見る必要があるのです。

 債券の利回りが0.1%で株式利回りが4%であるとき、株式の利回りが低すぎるとは言えません。PER15倍は利回りに換算すると6.7%になりますが、債券利回り0.1%に対して株式利回り6.7%は「高すぎる」と判定できるのです。つまり、日本の場合PER15倍では低すぎる、債券利回りがゼロ水準にとどまるなら、PERが上昇しておかしくないと考えられるわけなのです。

●株価反騰の背景

 コロナ騒動が続いていますが、日本経済の実態はコロナ騒動とは少し乖離しています。日本の実質GDPは年率換算で542兆円まで回復しました。コロナ前の2020年1-3月期に546兆円だった実質GDPは昨年4-6月期に500兆円に激減しました。09年10-12月の水準にまで減少したのです。ところが、その後急激に回復して10-12月期に542兆円に戻りました。コロナ不況の谷をほぼ埋め合わせています。今年1-3月期は再び減少するでしょうが、昨年のような落ち込みにはなりません。

 このなかで、同様に驚くべき変化が生じています。東証1部上場企業の20年度経常利益は昨年9月時点で18.4%減益の予想でした(東洋経済新報社・四季報ベース)。これが、現時点での会社発表ベースの統計では1.3%増益に転じているのです。19年度と20年度に2年連続の2割減益になるとの見通しだったのが、一転して、20年度増益が見込まれるように変化したのです。

 日本の場合、コロナに大きな不安材料が残ります。菅首相は3月21日をもって緊急事態宣言を終了することを決定しました。最大の理由は五輪を強行することにあります。この要因を除いて考えれば、当面は慎重な対応をとったはずだと言えます。コロナ新規陽性者数は3月10日頃を境に増加に転じているのです。「聖火リレー」を始めたことには海外メディアも疑問の声を上げています。「聖火リレー」と言うより「不審火リレー」と表現する方が適正に思えます。

●重要性増すFEDウォッチ

 コロナ要因を除けば、経済は回復し、企業収益も堅調推移が見込まれています。そこに、日米で驚く水準の過剰流動性が供給されているのです。代表的マネー指標であるM2は日本ではバブル期以来の高い伸びを示していますが、米国ではさらに高い前年比25%増を記録しています。過剰流動性が株価押し上げの原動力になっていると判断できるのです。

 しかし、金融政策を司る日米金融当局が過剰流動性問題に対応を迫られ始めています。景気回復の基調が極めて強く、インフレ指標もはっきりと上昇の傾向を示し始めています。FRBが何らかの対応を示さなければ金融市場が先回りしてインフレ期待を強めて長期金利を大きく押し上げてしまいます。

 2月、3月の金融市場波乱の主因がこの点にありました。この状況下でFRBの一挙手一投足に関心が注がれることになります。2月24日のパウエルFRB議長の議会証言、3月17日のFOMC金利見通しなどで金融緩和の長期持続期待が高まってNYダウ平均は史上最高値を更新しましたが、これだけで安心してしまうことは許されません。

 両日とも、翌日に解釈の見直しが広がって株価は急反落したのです。3月25日にはパウエルFRB議長がインタビューで金融市場の不安心理を和らげる発言を示しました。この発言で金融市場は一安心したようです。しかし、その発言を鵜呑みにできないことをここ3ヵ月の市場変動が物語っています。正確な経済分析能力と深い相場心理への洞察が求められる局面が到来しています。

(2021年3月26日記/次回は4月10日配信予定)


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