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【特集】原油価格回復のカギを握る需要見通し、脇役に退くOPECプラス <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 世界中で新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者数拡大は一巡し、少なくとも最悪期は過ぎた。スペインやフランス、英国、米国など主要国は経済活動を段階的に再開する方向にあり、石油需要は回復に向かっている。

 ただ、需給バランスは依然として供給過多である。石油輸出国機構(OPEC)加盟国を中心とした産油国が日量970万バレルの協調減産を開始し、米国では原油生産量の自然減が始まっているが、過剰在庫の増加は止まっていない。原油価格が思ったほど回復していないことから、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、クウェートが6月の追加減産を行い、OPECプラスが日量970万バレルの減産を7月以降も継続するとの報道はあるものの、需給バランスに変化はなさそうだ。過剰在庫の増加ペースが鈍化するだけである。需要が一段と回復し、供給がさらに減少しなければ、在庫は一段と積み上がるだろう。

●焦点はシンプルに“需給見通し”

 今後の原油相場を占ううえで、需給見通しがカギである。需要回復と供給減少の両輪で、需給が均衡化した後、過剰在庫の取り崩しが始まると相場は鮮明に上向くだろう。焦点はかなりシンプルである。コモディティ市場の基本に立ち返り、需給を見つめ直す場面だ。

 供給見通しはOPEC加盟国を中心としたOPECプラスがほぼ決定付けている。米国やカナダ、ノルウェーなどOPECプラス以外の減産によって世界全体の減産幅はある程度拡大していくが、短期的に供給見通しが大きく変化するのは稀である。昨年のように、サウジアラビアの石油施設が攻撃されるような事態は滅多に無い。OPECプラスのような大規模カルテルが追加策を講じない限り、供給見通しはあまり話題とならず、相場の変動要因にはならない。そもそも、日量3000万バレル規模の需要が蒸発しているなかで、多少の減産強化は無力である。コロナショック前の世界の石油需要は日量1億バレルである。したがって、基本に立ち返る相場であるとはいえ、自ずと値動きの主役となるのは需要見通しである。相場を眺めるうえで、供給見通しは脇役である。

●EIA週報で需要回復を確認

 新型コロナウイルスによって崩壊した世界経済が立ち直り、石油需要が回復していくには都市封鎖の解除など経済的な制限が撤廃され、従来のように経済活動が自由に行われることが必要である。開発中のワクチンが実用化され、いずれは完全に自由な世界を取り戻す日が来るに違いないが、短期的には各国政府の動向を眺めつつ、石油需要の回復期待を高めていくことになりそうだ。ただ、人々が従来のように旅客機や列車、大型バスを利用して集団で移動する世界に戻るとは考えにくい。コロナショック後の石油市場にとってプラスとなるのか不明だが、石油消費の構造は変化するだろう。

 足元の石油消費を確認するには米エネルギー情報局(EIA)が発表する週報に依存するほかない。OPECや国際エネルギー機関(IEA)が発表する月報は、世界的な石油の需給動向を網羅しているが、月次の統計とあって適時性に欠ける。発表された時点で過去の数字しか並んでいない。一方、EIA週報は米国という世界最大級の産油国であり石油消費国の詳細かつタイムリーな統計で、月報の内容に先行する。EIAの発表で需要回復期待が裏打ちされることで、相場は上向きの流れを得ていくのではないか。新型コロナウイルスの流行を巡って、米中だけでなく、オーストラリアと中国の摩擦が強まっていることは景気見通しに影を落としているが、対立が急激に悪化しないことを期待する。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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