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【特集】米国の石油需要は一段と好転へ、驚きの雇用統計で高まる景気のV字回復期待 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 今年の石油市場は阿鼻叫喚の繰り返しである。イランのスレイマニ司令官殺害や新型コロナウイルスの流行、サウジアラビアとロシアの石油戦争、ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)のマイナス価格など、尋常ではない出来事で埋め尽くされた2020年前半が終わろうとしているが、また思いもよらない材料が降ってきた。米雇用統計で非農業部門雇用者数(NFP)が早々と増加に転じるとは誰が予想しただろうか。

 5月のNFPは前月比で250.9万人増加した。4月のNFPは2000万人超減少しており、米国の経済史に残る大惨事であることには違いないが、今回の数字も目を疑う。雇用の増加を示す関連指標は見当たらず、疑心暗鬼の市場参加者は多い。コロナショック前の米経済は順風満帆に近く、大規模な景気支援と金融緩和によって雇用市場のダメージが最小限となったと考えることはできるが、全てが後付の考察でしかない。

 今後の経済指標で雇用市場の行方を確認する必要があるにしても、とりあえずは米国の雇用が急回復しているという前提で石油市場を見通してみよう。統計の結果を疑っても時間の無駄である。修正が入るのか悩むよりも値動きを追うほうが有益である。値動きの軸は需給である。

●米国のガソリン需要がカギ、留出油は消費の上向きに期待

 先週、米エネルギー情報局(EIA)が発表した週報で、5月最終週のガソリン需要は日量754万9000バレルまで回復した。コロナショックで同500万バレル近くまで減少したことからすると、回復は著しい。外出規制の緩和だけでなく、雇用回復もあって家計のガソリン消費が上向いたと考えるのが妥当だろう。従来の雇用環境に回帰しつつあるならば、ガソリン需要は一段と増加しそうだ。米国の石油需要は世界最大であり、従来であれば夏場の米国のガソリン需要だけで世界全体の石油需要の1割近くを占める。世界全体の需給が引き締まるかどうか、米国のガソリン需要がカギであると言っても過言ではない。

 一方、EIA週報でディーゼル燃料など留出油の需要はかなり弱く、日量271万8000バレルまで減少した。外出制限が解除されて経済活動が再開しているにも関わらず、コロナショック後の低水準を更新している。感染回避のため長距離バスの燃料需要が減少している可能性が高いほか、消費や設備投資の落ち込みを背景とした物流の低迷がディーゼル燃料需要を圧迫している。ただ、油種によって需要の推移はまちまちであり、石油製品全体の需要回復は道半ばであるが、雇用が回復し屋台骨である消費が上向くならば、物流などの向かい風も和らぐだろう。

●需給の引き締まりは新たな上昇トレンドの土台になる

 驚きの米雇用統計を経て、今週のEIA週報でガソリン需要が一段と増加し、ディーゼル燃料を含んだ留出油の需要底打ちが確認できるならば、需要見通しは一段と好転するだろう。石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国は現行の過去最大規模の減産を7月も継続することで合意しており、供給過多が需要超過へ転換するタイミングは近いかもしれない。過剰在庫の取り崩しは新たな上昇トレンドの土台になるだろう。前向きな値動きが続きそうだ。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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