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【特集】原油高の引き金となるか? コロナショックで急増の石油在庫は取り崩し局面に <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 米国で過剰在庫の削減が始まろうとしている。先週の米エネルギー情報局(EIA)の週報で、戦略石油備蓄(SPR)を除く原油と石油製品在庫の合計は6月以来の低水準となった。このうち原油在庫は5億1408万4000バレルと、4月以来の水準まで減少した。コロナショックによる石油在庫の急増、ニューヨーク市場でウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物が史上初のマイナス価格となる大惨事を経て、過剰在庫が解消に向かう兆候がある。

●過剰在庫の減少は相場を押し上げる最大の要因

 EIA週報では製油所稼働率が81.0%まで上昇したほか、石油製品需要は日量1936万9000バレルまで回復し、それぞれコロナショック後の最高水準を更新した。ガソリン消費が引き続き上向いているうえ、低迷していたディーゼル燃料など留出油の需要が回復に向かっている。世界最大の石油消費国である米国を中心に需要がさらに回復していることから、世界的な石油在庫の指標である経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫が減少に転じる日は近いと思われる。統計のタイムラグのため確認はできないが、足元で既に減少し始めているのではないか。

 世界的な過剰在庫の減少は相場を押し上げる最大の要因である。短期間での在庫の急増がマイナス価格をもたらした一方、在庫が順調に取り崩されていくならば、かなり穏やかな上昇基調を辿っている相場の上値を軽くするだろう。石油輸出国機構(OPEC)の月報によると、6月のOECD加盟国の商業在庫は前月比2430万バレル増の32億4000万バレルまで拡大したが、増加ペースは一段と鈍化しており、7月はより小幅な増加となる見通し。8月以降の減少を期待する根拠は整っていると思われる。

●強気統計でも不安から開放されない相場

 本来であれば過剰在庫の解消見通しは相場を押し上げる。ただ、未知の新型ウイルスの出現によって世界経済は根本から変化せざる得なくなった。年末あたりからワクチンが順次投入されていくにしても、経済活動の正常化を見通すのは難しい。感染力の強い疫病によって石油市場は需要の下振れリスクと隣合わせであり、需給が改善を続けるのか確信を持てない。米国など夏場に感染が拡大した国があることからすると、流行が広がりやすい冬場は不穏である。需給統計的には前向きであっても、大規模な都市封鎖がまた実施されないとは限らず、市場参加者の心理は不安から開放されない。WTIやブレント原油など指標原油の推移が示すように、上値に慎重でも無理はない。足元の強気な統計を根拠としても、前向きな見通しが広がりにくいのがコロナショック後の相場の特徴である。

 世界的な需給統計の先行指標であるEIA週報で、過剰在庫の取り崩しが誰の目にも明らかとなれば原油価格はさらに上昇するだろうか。今週の週報では在庫の減少がより鮮明となっているかもしれない。ただ、コロナショック前の相場であれば、原油高となる可能性がかなり高いが、コロナショック後の反応はおそらく異なる。

 米ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、世界全体の新型コロナウイルスの新規感染者数は先週14日に30万人超の増加となり、1日あたりの伸びが最高水準を更新した。パンデミックが続いている。過剰在庫の解消期待と需要下振れ懸念は共存したままである可能性が高く、強弱の対立が続きそうだ。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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