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【特集】サウジは増産計画の修正を検討、産油国が畏怖する“石油市場の中央銀行” <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 米大統領選まで約3週間である。結果次第では石油を含め金融市場の見通しが変わる。値動きが淀んでいるウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)やブレント原油が動き出すのは米大統領選の後だろう。ただ、今週、来週については石油輸出国機構(OPEC)加盟国を中心とした産油国の動きに目を向けたい。

●コロナ再流行で避けられない軌道修正

 米WSJやダウ・ジョーンズの報道によると、OPECの舵取り役であるサウジアラビアは来年からの増産計画の修正を検討しているという。コロナショックが一巡した後、OPECプラスは減産規模を段階的に縮小しており、12月末まで日量770万バレルの減産目標を維持した後は同570万バレル規模まで減らす予定だったが、新型コロナウイルスの再流行で軌道修正が避けられなくなった。来年1-3月期は増産を見送るようだ。

 ロシアやスペイン、イタリア、英国、フランス、ドイツなど各地で新型肺炎が再流行しており、経済活動が制限されている。石油需要の減少は不可避である。世界第3位の石油消費国であるインドでは急激な感染拡大が続いており、累計感染者数で米国を上回りそうな勢いだが、米国でも一日あたりの感染者数がまた拡大する兆候があり、世界的にはコロナ禍が収まる気配は見られない。

 今週は15日にOPECプラスの共同技術委員会(JTC)、来週19日に共同閣僚監視委員会(JMMC)が行われる。コロナショック後はJTCとJMMCが毎月オンラインで開催されており、今回はサウジアラビアの増産見直し案が協議されるだろう。この提案について、会合までには産油国から何らかの言及がありそうだが、サウジの方針に逆らう国はなさそうだ。世界最大規模の産油国であるロシアも余計な文句は言えない。

●“投機筋には地獄のような苦しみを味わわせる”

 今年3月、サウジアラビアは原油安をまた凶器として用いた。ロシアとの協調減産協議が決裂したことが背景だったが、サウジの怒りで原油市場がどのような道筋をたどったのか思い起こすまでもない。シェアを重視するロシアに業を煮やし、サウジもシェア拡大のため取引先に大幅値引きを通告したのである。WTIがマイナス価格に向かうスタートラインとなった出来事であり、指標原油のチャートには思い出深い「窓」が残されている。サウジアラビアはたびたび原油価格を武器として利用しており、声高に反対する産油国はおそらく存在しない。サウジの主張は現実となるだろう。

 サウジの意思を尊重し、畏怖するのは産油国だけではない。市場参加者も同じである。先月のJMMC後、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相はOPECプラスの各国に対して減産目標の遵守をきつく要求したほか、「石油市場の投機筋には地獄のような苦しみを味わわせる」と述べた。一時的に原油価格が下落したときの言葉であるが、公の場で耳にするような表現ではない。投機的な売りをけん制する目的があったことは明白である。

 産油国であれ、市場参加者であれ、サウジに歯向かうのは勇気が必要である。そもそも敵対するのは賢明ではない。あのロシアでさえおとなしくなった。WTIがマイナス価格となったことによる米国の経済的被害は計り知れない。サウジが増産計画を修正しようとしているのであれば、価格を支えようという意思は明らかである。石油市場におけるサウジの役割は中央銀行に例えられることがあるが、逆らってはならない存在であることは間違いない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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