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【特集】「原油高誘導」がOPECプラスの選択肢に復活、バイデン新政権は相場上昇を黙認か <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 ニューヨーク市場でウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は年初に1バレル=53.93ドルまで上昇し、昨年2月以来の高値を更新した。世界的に新型コロナウイルスの流行がまったく収まっていないなかでも上昇基調を維持している。主要国では都市封鎖などかなり厳格な規制が続けられているほか、中国でも新型肺炎が再流行する兆しがあり、年末年始の石油需要は落ち込んでいると思われるが、足元の調整は限定的である。

●石油需要は思ったほど落ち込んでいない

 昨年11月にかけて減少傾向だった石油の過剰在庫が世界的に再び積み上がっている可能性がある一方、米エネルギー情報局(EIA)が発表している週報によると、米国の原油と石油製品の在庫の合計は13億3427万バレルまで減少しており、昨年7月以降は取り崩しが続いている。新型コロナウイルスの流行が強まっているなかでも、米国では石油需要の大幅な減少がないことに加えて、石油輸出国機構(OPEC)プラスの減産もあって、過剰在庫が膨らまず、むしろ米国の在庫は減少し続ける傾向にある。

 世界最大の石油消費国である米国の在庫推移は、世界的な在庫動向の先行指標である。EIA週報の在庫推移からすると、北半球の冬場に新型コロナウイルスの流行が強まり、変異種の拡散もあって都市封鎖などが一部の国で再開されたものの、石油需要は思ったほど落ち込んでおらず、需要減はOPECプラスの減産で穴埋めされている可能性がある。

●サウジの減産は原油高誘導

 統計のタイムラグのため、世界的な石油在庫の指標である経済協力開発機構(OECD)加盟国の在庫水準は昨年11月分までしか明らかとなっておらず、12月以降はまだ不明である。ただ、先行性のあるEIA週報を参考にすると、減少傾向にあるOECDの在庫は再び積み上がっておらず、むしろ需給が一段と引き締まっている可能性がある。

 今月、サウジアラビアが2、3月と日量100万バレルの自主減産を行うと発表した後、相場は前向きな方向に刺激されたが、サウジの減産が需給をより引き締め、OECD在庫のさらなる取り崩しが期待できることから、原油相場の一段高は当然の帰結といえる。需給が思ったほど悪化していないなら、サウジの自主減産は本当に必要なのだろうか。日量100万バレルの減産は規模としてかなり大きい。

 世界経済が疫病に侵されているなか、他の産油国と比較してサウジの需要見通しは慎重である。増産を主張するOPECプラスの産油国をなだめるため、サウジが自主減産を代償として提示したと考えるのが妥当である。産油国は増産と引き換えに原油価格の上昇による恩恵を受ける。ただ、サウジの自主減産がやや引き締まっている需給をさらに引き締めるならば、明らかに原油高誘導である。トランプ氏が再選を決めていたならば間違いなく文句を言われたことだろう。米経済が回復に向かううえで原油高は邪魔である。

●バイデン新大統領は原油高を歓迎?

 年初にかけての原油高は、コロナ禍を通過した後の需要回復を先取りして上昇していたと考えられると同時に、サウジによる原油高誘導が背景にある。トランプ政権下で許容されなかった行為が、バイデン次期政権の発足に向けて産油国の選択肢として復活したといえるのではないか。政策の本丸としてクリーン・エネルギーへの移行を目指すバイデン新大統領にとって、安価な化石燃料は政策運営上の障害でしかない。可能であるならば原油高が続き、消費者が購入をためらうような価格推移となったほうが温暖化ガスの削減につながるはずである。

 サウジアラビアの自主減産は、原油高誘導だけでなく、バイデン次期政権を試す目的があったのではないか。今のところ米国から物言いはついておらず、新政権の発足後も原油高がけん制されなければ、OPECプラスの自由度は拡大する。原油高が続くなら、バイデン政権と産油国の利害が部分的に一致するかもしれない。米国が化石燃料をできる限り排斥しようとしていることは産油国にとって脅威でしかないが、価格上昇で痛みが軽減され得る。バイデン次期大統領のエネルギー政策を見極めたい。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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