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【特集】原油高でも低迷する米シェール生産、供給不足がコロナ後のリスク要因に <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 昨年のコロナショック後、米国の原油生産量が低迷している。 原油価格が回復しているにも関わらず、原油高を抑制する調節弁が機能していない。

 世界最大級の産油国はロシアとサウジアラビアと米国である。現時点での生産能力ははっきりとしないが、この参加国で日量4000万バレルは生産可能ではないかと思われる。世界の石油需要の約4割をこの3ヵ国に依存することが可能であり、その他の産油国と比較すると規模は突出している。

●原油高でも増産しない米国

 ロシアとサウジアラビアは石油輸出国機構(OPEC)プラスの舵取り役である。新型コロナウイルスの流行を背景に両国は生産規模の抑制を当面続ける見通しであり、原油価格が上昇しようとも生産量を大きく増やすことはない。一方で、米国はOPECプラスのようなカルテルとは正反対の存在であり、本来であれば原油高で積極的に増産するものだが、足元の生産量は回復していない。

 米国の原油生産の中心はシェールオイルであるが、米エネルギー情報局(EIA)が発表する掘削生産性報告(DPR)で石油産業の消極性は明らかである。昨年5月、主要7地域のシェールオイル生産量は日量678万バレルまで減少した後、今年2月は同758万バレルとなっているものの、コロナショック前は日量900万バレル超で推移していたことから回復は鈍い。

 DPRでは1月の掘削済みの坑井が417本まで増加しており、昨年7月や8月の290本と比較すれば回復傾向にある。ただ、2019年は月次で1000~1400本程度だったことからすれば、掘削作業はかなり控えめである。現在のシェールオイル生産量は、これまでに掘削されて完成作業が施されていなかった坑井を利用することで維持されており、原油価格が上昇しているなかでも石油企業に増産意欲はみられない。

 コロナショック後、大手石油企業のほとんどは赤字である。米エクソン・モービルは2020年の通期決算で40年ぶりの赤字となった。石油メジャーの米エクソン・モービルと米シェブロンが経営統合を検討するほど石油産業は追い詰められており、シェールオイルの中心的な産地であるパーミアンで投資を拡大し、増産を目指すような状況にはない。債務の返済や現金の確保が急務である。

●米国は原油高を容認、原油相場はカルテルの手中に

 コロナショックによる痛みを乗り越えれば、米国の石油産業が増産を開始する可能性はある。ただ、バイデン政権のクリーン・エネルギー政策が始まろうとしていることから、原油高でも米国の原油生産量は容易に増えないだろう。バイデン政権が目指す脱炭素社会は石油産業と真っ向から対立する。米国では化石燃料を利用する自家用車などの輸送用機器が排他的な扱いを受ける可能性が高く、石油産業への投資が先細りとなっていくリスクがある。

 米国の石油離れを引き起こすには、原油高に誘導することが手っ取り早い。電力の源がなんであれ、コスト面で石油よりも電力が優れるなら、電気自動車がさらに普及するのではないか。OPECプラスは世界的な過剰在庫を解消しようとしており、トランプ前政権のような原油高けん制がないことを考慮すると、在庫減による原油高を想起しやすい。原油相場はカルテルの手中に戻ったといえる。米国だけでなく、世界全体で石油産業への投資が減少していくなら、供給がネックとなった不意の暴騰が発生することもありうる。

 2020年は原油のマイナス価格が象徴するように市場から石油が溢れ、逆オイルショックを招いた。ただ、これからは本当のオイルショックを警戒しなければならない。値動きの行く末を決める主役の座には需要見通しが居座っているものの、供給リスクも存在感を強めている。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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