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【特集】OPECプラスは慎重に増産へ、変異続くコロナは需要見通しのワイルドカードに <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 7月1日にサウジアラビアやロシアが中心となった石油輸出国機構(OPEC)プラスの閣僚会合が開催される。7月までの減産目標の縮小はすでに合意に至っており、会合は8月以降の増産の是非が焦点である。新型コロナウイルスの流行を克服した主要国の経済が正常化に向かっていることから、需要回復に合わせて増産が行われる可能性が高い。

●デルタ株の脅威で見通しは不透明に

 ただ、ワクチン接種で先行した米国や欧州各国の景気回復が続くのか不透明になってきた。新型コロナウイルスの変異株デルタが流行しており、ワクチンで守られていた英国でも再流行に見舞われている。英国で死者数は増加しておらず、重症化はワクチンによって妨げられているとしても、日々の感染者数の拡大ペースは脅威である。

 英国のワクチン完全接種率は48.8%と、イスラエルに次ぐ高水準である。英国では米ファイザー<PFE>、米モデルナ<MRNA>、英アストラゼネカ、米ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>のワクチンが利用されており、同じワクチンが使用可能な米国や欧州連合(EU)では再流行のリスクと隣合わせである。

 ワクチンの効果によって、新型コロナウイルスを「ただの風邪程度のリスクしかなく、寝ていれば治る」と捉えれば脅威として認識する必要はない。しかし、変異を繰り返していることから流行の終わりが見えてこない。北半球は夏休みシーズンに入っており、国をまたぐ人々の移動は増加するほか、7月に開幕する東京オリンピックで人流は否応なく増えることから、変異株の拡散を防ぐことはできないだろう。欧州や米国でデルタ株が流行し、各国が経済活動の制限を“維持”または“強化”するなら、原油の需要回復見通しは曇る。

●サウジとロシアは増産を決定できるか

 デルタ株の流行に直面しているなかで、サウジアラビアやロシアはためらいなく増産を決定できるのだろうか。ワクチンが効果を発揮しているとはいえ、需要回復見通しは安泰ではない。昨年のコロナショックは全世界にとって間違いなく想定外だった。原油価格が1バレル=0ドルを下回ることがあるのを知ったのも昨年だった。主要国の経済活動は正常化に向かっているとはいえ、コロナリスクから完全に切り離されたわけではなく、主要産油国の意思決定に影響を与えるだろう。

 以前から減産目標の縮小に積極的なロシアはデルタ株の流行に喘いでいる。自国が感染抑制に苦慮しているなかでも増産を主張するのだろうか。ロシアでは感染者数が急拡大しているだけでなく、一日あたりの死者数が過去最高水準まで拡大している。デルタ株の感染力の強さを目の当たりにしているなら、増産をためらうのではないか。

 ロシアとは対照的に、サウジアラビアは従来から減産目標の縮小に慎重である。世界的に需要が回復しつつあるとはいえ、コロナ変異株が流行しているなかで、積極的には増産しないだろう。減産目標を縮小するにしても、かなり限定的ではなかろうか。

 ただ、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は「私たちは、手に負えなくならないように、インフレを抑制する役割も担っている」との認識を示している。OPECプラスの舵取り役であるサウジアラビアがインフレ抑制に言及するのは異例だ。確かに主要国の物価上昇率は上振れしているが、伸びが突出しているのは米国だけであり、世界経済にとってインフレ高進が脅威であるようには見えない。

 OPECプラスが5~7月にかけての増産を決めた4月から原油相場は一段と上昇しており、消費国に配慮するならばさらに生産量を増やすべきである。原油高の一巡はインフレ率の抑制にも寄与する。ただ、ためらいなく増産を決定できるほど見通しははっきりとしていない。変異株がワイルドカードとなり、不確実性が消えない。8月の生産量だけ暫定的に定めて、9月以降はとりあえず白紙にしておくのが無難だろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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