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【特集】テーパリング巡る思惑が金相場を圧迫、緩和縮小の開始を見極めへ <コモディティ特集>

MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
 の現物相場は、7月の米雇用統計をきっかけに急落し、8月9日に3月31日以来の安値1686ドルをつけた。労働市場が予想以上に改善し、米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和の縮小(テーパリング)が見込まれたことが圧迫要因になった。ただ、テーパリング開始には労働市場の改善が数ヵ月継続することが必要との見方もあり、売り一巡後は売られ過ぎ感から買い戻されて下げ一服となった。

 一方、新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大により景気の先行き懸念が出ている。米国では反ワクチンの動きもあり、ワクチン接種率の低い地域での感染が目立つ。8月の米ミシガン大消費者信頼感指数速報値が約10年ぶりの低水準になるなど景気減速懸念が強まり、米FRBの早期のテーパリング開始の見方が後退した。

 27日にパウエル米FRB議長がジャクソンホール・シンポジウムの講演でテーパリングの開始時期について慎重な見方を示すとドル安に振れ、8月4日以来の高値となる1822ドルまで戻し、「往って来い」の動きとなった。

●米FRB議長は年内のテーパリング開始の見方を示す

 パウエル議長は金融政策の見通しについて慎重姿勢を示したが、年内のテーパリング開始が適切との見方も示している。インフレは一過性との見方を繰り返し、早急に対応する必要はないとしたが、労働市場が改善すればテーパリングを開始できるとした。

 当面は3日に8月の米雇用統計の発表がある。事前予想は非農業部門雇用者数が75万人増(前月94万3000人増)、失業率が5.2%(同5.4%)となっている。好調な内容になれば9月21~22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリング開始を決定できるとの見方もある。

 ただ、新型コロナのデルタ株の感染拡大に対する懸念が残る。米食品医薬品局(FDA)が米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したワクチンを正式承認したことを受け、各方面でワクチン接種義務化の動きが進んだ。ワクチン接種が進むと、新型コロナを制御できるとの見方もあり、しばらくは感染拡大と接種の行方を確認する必要がありそうだ。

 また、米国は9月20日からワクチンの追加接種(ブースター接種)を開始する予定である。ブースター接種の効果も確認するとなればテーパリング開始決定は11月か12月の米FOMCを待つことになりそうだ。ただ、免疫不全の人や医療従事者にはすでにブースター接種が始まっている。

 一方、新型コロナウイルスの新たな変異株「C.1.2」が5月に南アフリカで検出された。世界保健機関(WHO)は、現時点で広く拡散していないとの見方を示している。ただ、英学会の研究論文ではワクチンが効かない変異株がほぼ確実に出現すると予想されており、今後の行方を確認したい。

 米金融当局者のタカ派発言や、今回のパウエル議長の講演で、テーパリングが年内に開始されることがほぼ確定した。一方、市場では今後重要になるのは、テーパリングの開始時期ではなく、終了時期との見方が出ている。

 元メリルリンチのトレーダーのトム・エッセイ氏は、今回のテーパリングについて、開始が12月、終了は2022年末になる可能性が高いと予想している。米金融当局は米国債を月額800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を同400億ドル購入している。前回の資産購入プログラムは2013年12月に縮小開始を発表、2014年10月に終了し、2015年12月に利上げを開始した。緩和解除のペースが発表されれば、緩和終了と利上げ開始の時期が明確になるとしている。

●米雇用統計後の急落と急反発は短期ファンド筋が主導

 世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、8月31日に1000.26トン(前月末1031.46トン)となった。米雇用統計の発表後に急落し、「往って来い」の動きとなったが、米FRBのテーパリング見通しを背景に6月18日の1053.06トンをピークとして減少傾向にあることに変わりはない。

 一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは8月24日時点で21万0653枚(前週19万1542枚)に拡大し、6月1日以来の高水準となった。米雇用統計発表後の急落で新規売りが出て10日に16万8406枚に縮小したが、その後は新規買い・買い戻しが入って急反発した。今回の動きは先物市場での短期ファンド筋主導の動きとなった。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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