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【特集】原油価格が示唆するウクライナ紛争の行方、戦況を映すバロメーターに? <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 コモディティ特集と銘打った石油市場の記事を書いているアナリストがはっきり言うことではないかもしれないが、ロシア軍とウクライナ軍の戦況が全くわからない。ウクライナからナチズムを排除したうえ、軍事的な中立化を目指すというロシアの目的がどこまで達成されているのかも不明である。首都キーウの攻防ではウクライナ軍が善戦したというものの、ロシア軍は当初の目的だったウクライナ東部で攻撃を強めており、どちらが優勢なのか判断できない。

 ロシア軍の燃料や食料、戦費が不足しているとの見方や、首都キーウ周辺でロシア軍が時代遅れの装備を使用していたとの報道など、情報の真偽を確認することは困難であり、戦況の優劣など見極めようがない。制空権を確保しているロシアがキーウへの空爆を限定的にとどめ、電力、ガス、水道、インターネットなどのインフラを生かしたままにした理由も未だに不明だ。被害が大きくなることが予想される地上部隊を大規模に展開しているロシア軍の最終目標は未だに理解できない。

 インターネットを介してリアルタイムに近い報道があっても戦況を把握することは難しい。ニュースの数が飛躍的に増加し、ネット上で情報戦が繰り広げられるためである。フェイクか事実かを見極めるのは無理だ。

●ロシアの軍事的優位は原油高に拍車をかける材料

 ただ、情報戦を含めた紛争の行方はさておき、ロシアがウクライナで目的を果たすならば、プーチン政権が存続する限り西側各国は対ロシア制裁を継続し、場合によっては強化しなければならない。ロシアの勝利は経済制裁の長期化を意味し、エネルギー市場の混乱が延々と続くことを示唆する。ロシアの石油生産量は世界の需要の約1割であり、ロシアがいなければ、従来の化石燃料を中心としたエネルギー市場は成り立たない。

 4月前半にかけて軟化したブレント原油ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は一時1バレル=100ドルの節目を下回った後、再び騰勢を強めている。ウクライナ紛争の結末は不明だが、市場参加者がロシアの勝利とエネルギー市場の混乱長期化を意識している可能性は否定できない。ロシア軍がウクライナ東部のドンバス地方を掌握するなら、相場は再び上値を目指すのではないか。ドンバスは親ロシア派が集中する地域であり、クリミアのように併合される可能性が高い。3月に急騰した場面では1バレル=130ドル超の水準が抵抗となったが、これを再び試すだろう。

 ロシア軍の軍事的優位は原油高に拍車をかける材料であり、ウクライナ紛争の戦況を示唆するバロメーターとして機能するのではないか。ウクライナ紛争のように大々的に報道されることがなくとも、石油市場の市場参加者は世界中で発生する有事を常に目にしている。シリア、リビア、イエメンなどの紛争を見続けてきたこともあって、ウクライナ紛争ついての分析力もそれなりに長けていると思われる。フェイクニュースやプロパガンダへの耐性もある。湾岸戦争やイラク戦争を経験した古参は限定的だろうが、少なくともテレビに出てくるような有識者よりウクライナ紛争の行方をわかりやすく示してくれるかもしれない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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