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【特集】急落一服の金相場、燻るインフレ懸念と米利上げの行方が焦点に <コモディティ特集>

MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
 の現物相場は5月、米連邦公開市場委員会(FOMC)で大幅利上げが決定されたことを受けて急落し、2月3日以来の安値1789ドルをつけた。売り一巡後は米国の景気減速懸念からドル安に転じたことを受けて下げ一服となった。高インフレが続き、米連邦準備理事会(FRB)が大幅利上げを続けるとみられていることは金の圧迫要因だが、景気減速から利上げを停止するとの見方が出たことが下支えになった。ただ、実際に利上げを停止するかどうかは、ロシアとウクライナの戦闘や新型コロナウイルスの感染拡大、サプライチェーン(供給網)の再構築の行方次第であり、今後発表される経済指標が焦点である。

 通常なら各国の中央銀行が金融引き締めに転じれば金は下げトレンドに転換する。しかし、今回はロシアのウクライナ侵攻が原油や穀物価格を押し上げ、インフレ懸念が残っている。インフレが解消されるまで先行き不透明感が残る。また、ロシアの駐英大使は5月28日、核兵器を使用する可能性について否定したが、プーチン大統領はウクライナ侵攻後に戦略核部隊に特別態勢を取ることを命じており、戦況の行方次第では不測の事態も考慮する必要がある。

 米FOMCは2020年3月から続けてきたゼロ金利政策を解除し、3年3ヵ月ぶりに利上げを実施し、金融引き締めに転じた。今月の米FOMCではロシアのウクライナ侵攻によるインフレ懸念の高まりもあり、フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.50%ポイントと大幅に引き上げ、0.75~1.00%とした。

 また、6月に保有資産の縮小に着手することも決定した。3月の米個人消費支出(PCE)デフレータが前年比6.6%上昇と前月の6.3%から加速し、40年ぶりの高い伸びとなったことから、中立金利に向けて6、7月も大幅利上げを決定する見通しである。他の中央銀行もインフレ高進に対して金融引き締めに転じ、利上げを実施している。ただ、積極的な利上げによる景気減速懸念も高まっている。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、中央銀行が景気後退(リセッション)を引き起こすことなくインフレを抑制するのは難しくなっていると指摘しており、今後発表される経済指標でインフレと景気見通しを確認したい。

 一方、4月の米PCEデフレータは前年比6.3%上昇と前月から伸びが鈍化した。ドル指数は5月13日に2002年12月以来の高値105.01をつけたのち、ドル安に転じた。ただ、ウォラー米FRB理事の利上げ発言を受けてドル高に振れる場面も見られ、米FOMCが近づくと利上げ見通しからドルが買われるとみられる。

●金は中国の動向も確認

 ロシアは北大西洋条約機構(NATO)の東方不拡大を主張し、2月24日にウクライナに侵攻した。しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領が徹底抗戦を主張し、ウクライナ軍が複数の町を奪還すると、ロシア軍は首都キーウ郊外から撤退した。ロシアのプーチン大統領は5月9日の対独戦勝記念日に向け、東南部に軍を移動させ、攻勢に出たが、西側諸国がウクライナへの兵器供与を拡大したことを受け、戦況はこう着した。対独戦勝記念日の演説では侵攻を正当化するにとどまった。

 一方、フィンランドとスウェーデンが18日、NATOへの加盟を申請した。ウクライナ侵攻が逆にNATO拡大を招き、ロシアにとっては皮肉な展開となった。ゼレンスキー大統領は21日、ロシア軍を侵攻開始前の状態まで撤退させられれば勝利との見方を示した。ロシア国内では戦争反対の声も高まっており、プーチン大統領が停戦に向けてどう判断するかを確認したい。

 ロシアのウクライナ侵攻が現時点では失敗していることは、中国が「一つの中国」を主張し、台湾に侵攻することを躊躇させる要因である。バイデン米大統領は23日、日米首脳会談後の記者会見で、中国が台湾に侵攻した場合、米国が軍事介入するかという質問に「イエス」と答えた。ただ、翌日には「政策を転換したのか」との質問に「ノー」と答え、米国防長官も「政策に変更はない」とした。

 また、米大統領は新たな経済圏構想であるインド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足を宣言した。IPEFは中国への過度な依存からの脱却を目指しており、インドや東南アジア諸国など計13ヵ国が参加する。中国は王毅外相が30日、太平洋島諸国10ヵ国の外相と会合するなどIPEFをけん制したが、中国が提案した貿易と安全保障に関する声明には一部の国が慎重姿勢を示した。現時点では金市場で材料視されることはないが、中国の海洋進出に対する各国の警戒感は強く、今後の行方を確認したい。

●SPDRゴールド残高は大幅利上げで減少も一部戻る

 世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、インフレ懸念の高まりを受けて4月19日に1106.74トンまで増加したのち、米FRBの利上げ見通しを受けて減少に転じた。5月の米FOMCで大幅利上げが決定されると、投資資金の流出が加速し、17日に1049.21トンまで減少した。ただ、1800ドル割れで流出は止まり、安値拾いの買いが入ると、27日に1069.81トンに増加した。57.53トン減少したのち、20.60トン戻った。米FOMC後の投資資金流出は株安による換金売りもあり、今後は米FRBの6、7月の大幅利上げに対する株価の反応も確認したい。

 一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは5月24日時点で18万3813枚となり、2月1日以来の低水準となった前週の17万5360枚から拡大した。3月8日の27万4388枚をピークとして米FRBの金融引き締めを背景に縮小したが、1800ドル前後で売りが一巡した。2021年6月以降、1800ドル前後でのもみ合いが続いており、強固な支持帯となっている。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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