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【特集】ハリケーンシーズン迎え緊迫感高まる原油相場、米大統領の奔走も徒労に帰すか? <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 先週、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相と、ロシアのノバク副首相が会談した。サンクトペテルブルク国際経済フォーラムに出席予定ではなかったが、アブドルアジズ・エネルギー相がサプライズで登場し、会談後に記者団に対してサウジとロシアの関係は「リヤドの気候のように暖かい」と発言したのが印象的だった。疎遠なバイデン米大統領のサウジ訪問がようやく決まった後、サウジはロシアとの蜜月ぶりをアピールした。

●米大統領のサウジ訪問でも風向きは変わらない

 来週30日に開催の石油輸出国機構(OPEC)プラスの閣僚会合を控え、ノバク副首相は年内で終了する予定の協調体制の延長に言及し、新たな協調の枠組みが現行のような生産枠となるのかまだ不明であるとしながらも、年内には明らかになると述べた。コロナショックをきっかけに導入された過去最大規模の協調減産は8月で一応終了するが、9月以降の生産方針を今月末の閣僚会合までに検討する雰囲気は発言から感じられない。OPECプラスの増産目標を達成できていない国は多く、こういった産油国に生産量の拡大を促すことで消費国からの増産要請をかわすのではないか。

 来月のバイデン米大統領のサウジ訪問を控え、サウジはOPECプラスの追加増産をまとめて米国の機嫌をとることはしないだろう。西側がロシアに経済制裁を実行しているとはいえ、サウジとロシアの絆は揺らいでいない。夏場の需要期に向けて米国のガソリン価格は過去最高水準で推移しており、バイデン政権は輸出禁止を含めてエネルギー高の抑制策を検討しているが、戦略石油備蓄(SPR)の過去最大規模の放出を含めて結果は出せておらず、サウジ訪問でも風向きは変わらないだろう。

●手をこまねく政府、石油企業は投資を手控え

 リアル・クリア・ポリティクス(RCP)の調査によると、バイデン米大統領の支持率は今月に入って就任後の最低水準を塗り替えた。このままであれば、中間選挙で民主党はおそらく惨敗である。世界最大の石油消費国である米国では日量900万バレルのガソリンを消費することから、ガソリン高を背景とした市民の怨嗟は恐ろしく強い。

 ちなみに日本の石油消費量は全体で日量320万バレルと米国と比較すると多くはない。日本政府が石油元売りに補助金を支給し、ガソリン価格を抑制していることから米国のように批判の高まりは限定的だ。ただ、政府がいつまでインフレ抑制を続けるのか不明である。賃金ではなく物価対策を重視する岸田政権と、調節された物価上昇率を前提に金融緩和を続ける日銀の関係性は歪んでいる。政権が変わり、ガソリンへの補助金が停止となればインフレ率は急伸するが、日銀は金融引き締めを開始するのだろうか。

 バイデン政権は供給が不十分であることがガソリン高を促していると石油企業を批判しているが、クリーンエネルギー政策を背景に企業が石油関連の投資を手控えるのは当たり前である。経済が化石燃料から離れようとしているなかで、積極的に石油産業へ投資する理由は見当たらない。米国の内航船を規定するジョーンズ・アクトを改正できるならば、ガソリン小売価格の高い米西海岸や東海岸の供給ひっ迫感は後退し、全米のガソリン価格を抑制できるかもしれないが、バイデン政権に修正を目指す動きは今のところ見られない。

●ハリケーンシーズンの到来に募る緊迫感

 また、米国のガソリン在庫が減少を続けているなか、ハリケーンによって製油所など石油関連施設が被害を受ければ、おそらく目も当てられない事態が待っている。石油を不要とする社会が待ち受けるなか、企業は資金を投じて被災した石油施設を修繕するだろうか。米国の石油精製能力はすでに右肩下がりである。西側の脱ロシアによって、米国のエネルギー産業に依存しなければならない国が増えていることから、今年のハリケーンシーズンの緊迫感は尋常ではないと思われる。米国がサウジに増産を要請しても、聖域とされるジョーンズ・アクトの改正を目指すとしても、凶悪なハリケーンが米石油産業の心臓部であるテキサス州やルイジアナ州を直撃すれば、エネルギー高を抑制するための努力はすべてかき消される。

 今年のハリケーンシーズンは体験したことのない相場になるに違いない。ロシアのウクライナ侵攻後、世界のエネルギー産業の脆弱さが強く認識されていることも値動きを増幅するだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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