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【特集】“菅政権版”「国土強靭化」が本格始動、激甚災害対策+予防保全で再浮上機運 <株探トップ特集>

“スガ版”「国土強靱化」が始動へ。激甚化する自然災害に加え、老朽化が加速するインフラ対策も急務の状況下、関連株は再び出番の時を迎えようとしている。

―事業規模15兆円、巨額資金を背景にドローン、豪雨対策関連株に活躍素地―

 “スガ版” 国土強靱化が動き出す。菅義偉首相は1日、閣僚懇談会において防災・減災、国土強靱化のための「5ヵ年加速化対策(仮称)」を取りまとめるよう指示を出した。2021年度からスタートする新たな5ヵ年計画は事業規模約15兆円で、激甚化する風水害や巨大地震などへの対策、予防保全に向けたインフラ老朽化対策の加速、デジタル化の推進などを柱として取り組む。いま、株式市場の熱い視線はデジタルトランスフォーメーション(DX)に注がれるが、国土強靱化への道のりもこれを活用することで一気に加速することになりそうだ。再び注目の時を迎えるコロナ禍の国土強靱化。関連銘柄の動向を追った。

●“スガノミクス”の側面も

 新たな5ヵ年計画の特長は、20年度で終了する「防災・減災、国土強靱化のための3ヵ年緊急対策」(事業規模7兆円)と比較して、期間だけではなく事業規模も拡充している点だ。ここ急激に頻発化の度合いを増す大規模自然災害に対応するものだが、国土強靱化は国民の生命と財産を守るという大きな使命を背景に、もはや立ち止まることの許されない状況にある。安倍前首相と比較されることで発信力の乏しさが指摘される菅首相だが、事業規模が15兆円にも及ぶだけに経済対策としても期待されており、“スガ版”国土強靱化計画は“スガノミクス”の側面も持つ。初年度分に関しては、20年度第3次補正予算案に盛り込む方針だ。

●休養十分、新たなステージへテイクオフ

 ここ株式市場では、次期米大統領に当選確実となったバイデン氏による米国の環境政策の転換を受けて、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーといった脱炭素社会を目指す関連株に物色の矛先が向かっている。また、新型コロナウイルスの感染拡大はオンラインを活用した新たな産業の勃興を呼び、春先から「出世株」のオンパレードとなった。半面、昨年まで物色テーマとして高い注目を集めた国土強靱化関連株へのスポットライトは消灯状態にある。しかし休養十分、新たなステージに向けてテイクオフの時を待つ。

 国内中堅証券ストラテジストは「ここ国土強靱化のような、新型コロナ以外で具体的な財政出動を伴う相場テーマが取り上げられていなかっただけに新鮮味はある。従来計画に3兆円上乗せした5年間で15兆円という規模もさることながら、建設業界は時流として ドローンや建機の自動運転といったICT(情報通信技術)化が重視されており、それを国策で後押しするとなれば、生産性の向上などで建設株に対する投資家の目線も変わるのではないか」と話す。国土強靱化に絡む銘柄の業績は経済活動の停滞を背景に冴えない銘柄も多いが、国策の後押しによる活躍のステージが待っているだけに、中長期の視点に立てば拾い場ともいえそうだ。

●橋梁、トンネル待ったなし!

 今回の国土強靱化に向けた取り組みで目を引くのは、ICTを活用した橋梁やトンネルをはじめとする老朽化が著しいインフラに対する点検、維持管理への注力姿勢だ。国土交通省が昨年12月に発表した資料によれば、「高度経済成長期以降に整備された社会資本について、建設後50年以上経過する施設の割合が加速度的に高くなる」と指摘。18年3月時点で全国の道路橋のうち約25%が建設後50年以上を経過。33年には約63%になると試算している。12年には、中央自動車道笹子トンネル内で天井板が落下し死者9人、負傷者2人を出したことは記憶に新しいが、トンネルについては33年には約42%に達するという。

●応用地質、AI活用で事前防災を牽引へ

 地質調査大手の応用地質 <9755> は、インフラ点検など予防保全の分野でも事業領域を拡大している。公共投資の比率が大きいこともポイントだ。9月には「トンネル点検を効率化・高精度化するAIシステムを開発」したことを発表。トンネル近接目視にかかる現地調査から解析までの一連作業を人工知能(AI)で効率化するという。また気候変動などの影響で、豪雨・土砂災害が激甚化・頻発化・広域化傾向にあるなか、国土を面的かつリアルタイムで監視する多点での防災センサーシステム「ハザードマッピングセンサソリューション」が高い評価を得ている。会社側では「トンネル点検は、いままで熟練した技術者に頼っていたが、AIを用いることによって、(熟練技術者)同様の点検結果が得られることを視野に入れている。ハザードマッピングセンサソリューションは低価格化を実現し、既に多くの自治体で採用されている」とし、予防保全分野については「今後も需要は拡大していくとみている」と話す。同社が11月10日に発表した20年12月期第3四半期累計(1-9月)の連結経常利益は、前年同期比17.9%増の25億1600万円に伸び、通期計画の28億円に対する進捗率は89.9%に達した。株価は、7月中旬に直近高値1521円をつけた後は調整局面入りし、現在は1200円近辺にある。

●ドローンで攻勢、急速人気の自律制御シ研

 橋梁をはじめとするインフラの点検や予防保全で、いまやドローンは欠かせない。株式市場でも投資家の関心度は高く、関連株には熱い視線が向かうが、ここ急速に頭角を現しているのが自律制御システム研究所 <6232> [東証M]だ。同社は、11月19日に、Phase One Japan(長野県佐久市)と「1億画素の超高解像度カメラを搭載したインフラ点検用ドローンの提供を開始」したと発表。接近困難なインフラ構造物を離れた位置から全体像を捉えつつ、一部分を拡大し精細に確認することを可能にし、取得した高品質な画像は、三次元化やAI判定などポストプロセッシング処理を短時間で実行することも可能になったという。また、今月3日にはSkyLink Japan(京都市北区)と共同で「ドローンによる太陽光パネル点検の撮影から AIによる画像診断までワンストップで実施できるソリューションの提供を開始する」と発表するなど攻勢を強めている。株価は11月2日につけた直近安値2311円を底に切り返し、今月2日には3185円まで買われる場面もあったが上昇一服。きょうは2900円を割れたが、国内製品への転換が早急に求められているドローン+インフラ点検という国策に乗るだけに注目場面は続きそうだ。

●大日本コン、ミライトHDにも注視

 橋梁や道路で強みを持つ建設コンサル中堅の大日本コンサルタント <9797> [東証2]は、7月にドローンサービス事業者のFLIGHTS(東京都渋谷区)と業務提携した。ドローン技術を社会実装する事業において相互の保有技術と人財を生かし、技術力の向上及び相互の事業の発展・拡大を図る。大日本コンは川田テクノロジーズ <3443> とインフラ点検用ドローン「マルコ」を共同開発しており、ドローン技術の社会実装を進める方針だ。また、ミライト・ホールディングス <1417> は、子会社のミライト・テクノロジーズがドローン事業の新会社を7月に設立した。農業をはじめ測量などの幅広い領域でドローンビジネスの市場が成長しており、今後はインフラ設備老朽化に伴う構造物の点検分野の市場拡大が見込まれることが設立の背景にある。

 前出のストラテジストは「築50年以上のインフラの割合が、今後10~15年のうちに加速的に拡大することが明らかとなっている。インフラ予防保全で老朽化対策を進めることで、すべてが解決する段階とは思えないが、(予防保全を)もはや待ったなしで進めていく必要性に迫られている、ということは確かだろう」と指摘する。

●防災+再生エネで活躍素地

 航空測量大手のアジア航測 <9233> [東証2]は、コンサルタント技術と空間情報技術を融合し国土保全などに取り組み、防災関連株の一角としても折に触れて投資家の熱い視線が向かう。同社は11月13日に新中期経営計画を発表し、そのなか主要戦略のひとつに「センシング技術とAI分析を掛け合わせることで激甚化する自然災害への迅速かつ効果的な対応」を挙げており、今後の事業展開に注目が集まっている。ただ、同日の取引時間中に決算を発表し、20年9月期の連結経常利益は前の期比44.5%増の22億8000万円に拡大したものの、21年9月期通期は前期比33.2%減の15億2500万円に落ち込む見通しとなったことで株価は急落。12日の終値1040円から翌日には889円に売られ、現在も800円近辺で下値模索の状況にある。とはいえ、脱炭素社会に向けた動きのなか再生可能エネルギーに注目が集まる状況下、電力設備の計画や管理のための計測やシステムを提供する同社も活躍素地を内包しており、今後の動向には注視が必要だ。

●技研製は世界のインプラント工法

 国土強靱化では、ここ数年頻発化する大型台風や豪雨などによる堤防決壊など大規模災害への備えも当然のことながら重要となる。技研製作所 <6289> は河川の氾濫対策として「インプラント堤防」を手掛けるが、9月には同社が製造販売する杭圧入引抜機「サイレントパイラー」によるインプラント工法が、米ニューヨーク市のゴワヌス運河の護岸改修工事に採用され、工事が進んでいると発表。また、10月には中国の大手建機販売企業と、同国で2社目となる販売代理店契約及び指定工場契約を締結しており、圧入技術の普及拡大を目指す。10月9日に発表した20年8月期の連結経常利益は、前の期比58.7%減の27億9200万円に落ち込んだが、21年8月期通期は前期比14.6%増の32億円に回復する見通しだ。7月6日に年初来高値5190円をつけた後は冴えない展開が続き、ここにきては4000円割れ寸前の状況にある。

●前田工繊、日特建、ライト工

 さまざま河川護岸材を扱う前田工繊 <7821> にも目を配っておきたい。同社が10月30日に発表した20年9月期の連結経常利益は、前の期比14.0%減の46億3500万円になったが、21年9月期通期は前期比10%増の51億円に伸びる見通しだ。株価は、11月9日に2950円まで買われ年初来高値を更新した後は調整を続け、現在は2500円水準にある。また、上期経常が一転13.4%増益で上振れ着地した日特建設 <1929> 、同じく16.2%増益で着地したライト工業 <1926> など豪雨対策関連株の一角からも目が離せない。

 新型コロナの感染拡大は、経済活動を停滞させ国土強靱化に関わる企業の業績にも影を落とす。しかし、自然災害の脅威はコロナ禍であろうと待ってはくれない。総額15兆円、「国策に売り無し」という言葉が改めてクローズアップされる時がきたようだ。

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