市場ニュース

戻る
 

【特集】さよなら銀行振り込み、「給与デジタル払い」で浮上するフィンテック関連株 <株探トップ特集>

今後は会社からの給与が、スマホ決済アプリなどに直接振り込まれることも可能になるかもしれない。「給与デジタル払い」が実現すれば、フィンテック企業の強力な追い風となる。

―今春にも解禁との報道、日本のキャッシュレス化が急進展の可能性秘める―

 銀行口座に毎月振り込まれた給与を基に1ヵ月の生活資金をやり繰りする――。日本のサラリーマンが当たり前のことのように考えてきた、銀行への給与振り込みの習慣がこれからは変わるかもしれない。例えば、PayPayや楽天ペイといったスマートフォンの決済アプリに給与が直接振り込まれれば、一気に日本の キャッシュレス化は進展しそうだ。給与デジタル払いの株式市場への影響を探った。

●スマホ決済、電子マネーなどで給与受け取りが可能に

 日本経済新聞は1月27日付で「政府は今春から企業が給与を銀行口座を介さずに支払えるようにする」と報じた。デジタル払いの解禁とは、現在利用されている「銀行口座」を介すことなく、資金移動業者(送金サービスを提供する銀行以外の登録事業者)が提供しているスマホ決済、プリペイドカード 電子マネーなどのデジタルマネーで、給与を受け取ることができるようにすることだ。

 そもそも、なぜデジタル払いが許されていなかったのか。それは「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」(労働基準法24条1項)とされているからだ。実際、現在主流となっている銀行振り込みは但し書きで例外的に認められているため、活用することができるというわけだ。そこで厚生労働省はこの例外規定に資金移動業者を加える方向で金融庁や関連業界と調整に入っており、労働政策審議会(労働条件分科会)において議論を進めている。給与のデジタル払いについては、キャッシュレス化の促進はもちろんのこと、外国人労働者や副業者を含む多種多様な賃金払いのニーズへの対応という点で必要な施策であると考えられているが、利用者の保護が大前提であり、資金及び情報の保全スキームが重要とされている。

●資産保全を含めたセキュリティーの確保など重要に

 実際に利用されることを想定した場合、当然資金移動業者の下に労働者の賃金や購買に関する個人データが蓄積されることになるため、管理体制が求められる。昨年発生したドコモ口座を利用した銀行口座不正出金事件なども踏まえた多要素認証といった セキュリティーも必須だ。また、資金保全については事業者の破綻や不正といったリスクへの対応のほか、当然のことだが通貨と変わらない利便性を確保することが重要である。その他の課題としては労働者の同意の取り方やマネーロンダリング対策なども挙がっている。とはいえ、安全性についての懸念を一つずつクリアしていく必要はあるものの、デジタル払いの解禁は、デジタル決済社会の実現に向けた大きな一歩になることは間違いない。

●フィンテック関連企業には新たな事業機会が到来

 政府は昨年7月の未来投資会議において、決済インフラの見直し及びキャッシュレスの環境整備を進め、2025年6月までにキャッシュレス決済比率(20年は約20%台)を倍増し、4割程度とすることを確認した。また、外国人労働者にとって銀行口座の開設は言葉の問題が壁になっていたり、開設に時間がかかったりするという課題が指摘されている。そのため、給与のデジタル払いが解禁されれば、銀行口座を持たなくても給与支払いを受けることができるほか、海外送金もスムーズとなる可能性がある。なお、海外では「ペイロールカード」と呼ばれる、銀行口座を介さないで給与が受け取れるプリペイドカードが普及しているようだ。

 また、Fintech協会では、ウィズコロナの新たな働き方に適合した社会の実現としてこの動きを捉えている。キャッシュレス化による接触機会の減少や外出要因を減らせることで不要不急の外出自粛及び新型コロナウイルスの感染拡大防止にもつながるとみている。給与デジタル払いが解禁となれば、やはり金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせたFinTech(フィンテック)に関連する企業には、新たな事業機会が生まれることになり、物色対象として飛躍する可能性があるだろう。

 企業側のメリットとしては、振込手数料の削減、業務効率化につながるとみられる。また、銀行口座が不要となる給与デジタル払いによって、外国人労働者の利便性向上やそれを誘因とした労働力の確保が期待できるだろう。従業員の給与受取手段の多様性に対応ができるため、スマホ決済で行っているキャッシュバックなどの特典を間接的に提供することができる。そのため、給与関連の業務を効率化するITシステムである「ペイロール」を手掛けている企業が注目される。

●マネフォやTIS、鈴与シンワ、フリーなど注目

 マネーフォワード<3994>ではクラウド型給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」を提供しており、他のマネーフォワードクラウドシリーズとの連携が可能。そのため、給与計算業務のほか、経理・経費精算・マイナンバー管理など、多様なバックオフィス業務の効率化に寄与する。TIS <3626> では、ブランドプリペイドカードの各種業務システムから運営業務までをワンストップで提供するサービス「PrepaidCube+(プリペイドキューブプラス)」に、「給与デジタルマネー払い機能」を追加している。

 鈴与シンワート <9360> [東証2]はコンピューターソフトウェアの受託開発・開発支援、ソフトウェア製品の導入支援などを展開しており、さまざまな企業の給与処理に対応する「奉行クラウド」を展開。フリー <4478> [東証M]はクラウド会計、クラウド人事労務ソフトで高いシェアを持ち「人事労務freee」を提供する。ミロク情報サービス <9928> は中規模・中小企業向け業務パッケージである「MJSLINK NX-Plus給与大将」を提供している。業務用パッケージソフトベンダーのピー・シー・エー <9629> は会計ソフトが主力であり、「PCA給与DXクラウド」を提供する。

 その他、決済システムに関連する銘柄としては、ペーパーレス電子決済を含む決済全てをワンストップで提供するウェルネット <2428> や総合決済サービスのビリングシステム <3623> [東証M]、クレジットカード決済やモバイル決済などの決済代行サービスを手掛ける電算システム <3630> のほか、主力としては、GMOペイメントゲートウェイ <3769> 、GMOフィナンシャルゲート <4051> [東証M]などGMOグループ企業への注目が再燃する可能性もありそうだ。そのほか、フィンテック関連としては、メタップス <6172> [東証M]は給与即時払いサービス「CRIA(クリア)」を展開し、キャッシュレス化のほかフィンテック領域で総合的にサービスを積極展開。セレス <3696> は、フリーランス向け資金調達支援フィンテックサービス「nugget(ナゲット)」を展開。アステリア <3853> は、異なるシステムを持つ企業間のデータ連携、ブロックチェーン人工知能(AI)など先進技術に取り組んでいる。

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均