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【特集】超絶の次世代技術、「量子コンピューター」関連株に大化け機運 <株探トップ特集>

いま、量子コンピューター関連株に熱視線が注がれている。次世代成長産業を支えるインフラとして、超高速の演算処理技術がベールを脱ぐ時は近い。

―国策の追い風強力、ポスト「富岳」で動き出した官民挙げての成長戦略がいま走り出す―

 AI・IoT時代の奔流は、バーチャル空間にも飛躍的な進化をもたらした。コンピューター内に構築された3次元に模した空間で、人間同士が実社会さながらにコミュニケーションを楽しめるメタバースが脚光を浴び、こうしたパラレルワールドを次の主戦場に位置付けるIT企業が相次いでいる。ビジネスの拠りどころとなる暗号資産NFTといったデジタル経済圏が台頭し、同じ時間軸でハード領域では次世代コンピューティング分野にスポットライトが当たっている。

 そして、この次世代コンピューティングの急先鋒として、世界中が官民を挙げて研究開発に躍起となっているのが量子コンピューター である。岸田政権では「新しい資本主義」の重要課題の一つとして同分野への政策支援に前向きな姿勢を明示しており、株式市場でも関連銘柄に再び熱い視線が注がれそうだ。

●「01」の歴史にはありえない跳躍力

 従来型コンピューターは動作原理が「0もしくは1」というデジタルの普遍的コンセプトに基づいており、これは卓抜した演算能力を持つスーパーコンピューターであっても変わらない。具体的な原理としてはトランジスタを並べてスイッチが入っていない状態を「0」、スイッチを入れた状態を「1」として、すべての数値を「0」と「1」で表す2進法を採用している。計算能力の驚異的な進歩も、すべては気の遠くなるようなこの「01(ゼロワン)」の積み上げによって構築された歴史であった。しかし、量子コンピューターの概念は根本から違う。ひとつの量子が「0であり、かつ1でもある」という重ね合わせの状態を利用することで、人類がこれまで「01」で積み上げてきた歴史を軽く跳び越えてしまう途方もないパフォーマンスを生むことに成功した。

 最先端のスーパーコンピューターでおよそ1万年かかる演算問題を、量子コンピューターは数分で正解を導き出すことが可能という。これは2019年に米グーグルの研究チームが独自開発した量子プロセッサー「シカモア」で実証実験を行い、「量子超越性」を達成したと発表した際にも話題となった。この1年あまり後、科学誌サイエンスに掲載された論文で中国科学技術大学の研究チームが開発した量子コンピューターがグーグルのシカモアと比較して更に100億倍の演算能力を実現したことが分かった、と報じられるなど(報道元は新華社通信)、量子コンピューターを巡る競争は先鋭化する一方となっている。

●双璧を成すグーグルとIBM

 量子コンピューターは演算アプローチが従来コンピューターとは全く異なるが、具体的にどう違うのか。例えば迷路で言えば、従来のコンピューターはしらみつぶしにすべての選択肢を順番に検討していく。スーパーコンピューターがいかに進化しても同じ次元で速度を競うことに変わりはなく、ゴールを見つけるまでの過程にショートカットは存在しない。それに対し、量子コンピューターはまず俯瞰する視点を持ち、あたりをつけた雲の中から漸次確かな答えに近づいていく技法といってもよい。迷路なら複数のルートを同時並列的に走り、枝葉を切り落として(袋小路の道を排除して)ゴールにつながるルートを絞り込んでいく。迷路が膨大であればあるほど、この量子コンピューターの優位性が発揮される。

 量子コンピューター分野では、従来のコンピューターの論理ゲートに量子ゲートを代替させて計算を行う、いわばコンピューター論理回路の拡張型(上位互換)である「量子ゲート方式」と、組み合わせ最適化問題に特化した量子アルゴリズムの「量子アニーリング方式」、この2つに大別されている。簡単に言えば量子ゲート方式はデジタル、量子アニーリング方式はアナログの範疇に含まれる。

 量子ゲート方式では米国のグーグルとIBMが双璧で、世界でも群を抜いた存在だ。両社とも極低温の状態を作って超伝導物質を量子ビットとして利用する「超伝導型」を採用するが、これ以外にもイオン状態にした原子や分子を量子ビットとして活用し、大型冷却機を必要としない「イオントラップ型」などがある。グーグルは19年に「量子超越性」を達成し、昨年に量子データセンターも開設している。一方、IBMは19年に自社開発で初の事業化に乗り出し、既にクラウドで提供するサービスを行っている。同社は日本との交流にも積極的で、東京大学と技術連携を行い、アジアで初めて量子コンピューターの実機を日本国内に持ち込むなどしている。量子アニーリング方式については、1998年に東京工業大学の西森秀稔教授(当時)らが提唱した国産技術で、国内ではNEC <6701> [東証P]が先駆的存在であり、11年にはカナダのDウェーブ社が世界初の商用化に成功したことで耳目を集めた経緯がある。

●「ポスト富岳」で日本の「本気」が始まる

 今年5月に発表されたスーパーコンピューターの速度を競う世界ランキングで、理化学研究所と富士通 <6702> [東証P]が開発した「富岳」が、首位の座を米国の「フロンティア」に奪われ2位に甘んじたのは記憶に新しい。日本にとって「ポスト富岳」の戦略策定が迫られるなか、量子コンピューターとの連携なども模索されている。

 岸田首相が掲げる「新しい資本主義」では国益に直結する科学技術分野で国家戦略を明示する方針を打ち出しており、量子コンピューターはその重点投資項目に組み込まれている。かつて安倍政権の下でも「量子技術イノベーション戦略」が推進されてきたが、この流れが踏襲され、量子技術の社会実装に向けた取り組みが民間有力企業との協業で進められていく方向にある。国内では量子アニーリング方式で開発を目指すNECとデジタルアニーリングの雄である富士通の動きがカギを握っている。

 NECは99年に世界で初めて量子ビットの動作を実証した実績を持つ。同社は国立研究開発法人の産業技術総合研究所との関係が密接なことでも知られる。量子ゲート方式はエラーの発生が頻発しているのが現状で、実用化にはまだ時間がかかるが、同社が進める量子アニーリングマシンの開発はそれに先駆けての実用化が可能で、23年をメドに開発を進めている状況だ。量子アニーリングといえば、カナダのDウェーブ社が有名だが、NECはこのDウェーブ社に1000万ドル出資し技術やソフト開発で協業体制を敷いている。

 一方、富士通はスーパーコンピューター「富岳」でも周知の通り、理化学研究所との連携が強力だ。デジタルアニーリングは、従来型コンピューターを使った疑似アニーリング方式で、既に4年前から商業展開し、国内外で契約件数を伸ばしている。今年3月には「富岳」と同じプロセッサーを使って世界最速のシミュレーターを開発したことを発表、高性能の疑似量子コンピューターで本格普及期に備える構えだ。このデジタルアニーリングは、日立製作所 <6501> [東証P]、東芝 <6502> [東証P]、NTT <9432> [東証P]なども傾注している。

 米国と中国の間でAI覇権争いが繰り広げられるなか、「富岳」の後退でスーパーコンピューター分野も米中の後塵を拝する格好となりつつある日本だが、次世代コンピューティングの最右翼である量子コンピューターでは、是が非でも巻き返しを図りたいところ。岸田政権の政策骨子と目される科学技術への投資で最も重視すべきは、自動運転や再生医療など次世代成長分野そのものではなく、それらにイノベーションをもたらすための演算処理スピードの超高速化であるとの指摘もある。量子コンピューターの開発はそのインフラ基盤として要衝を担うことは間違いない。株式市場でもNECや富士通など大手IT企業をはじめ、独自展開を図る関連銘柄への見直しが、今後中期的に進む可能性が高い。

●量子新時代に活躍が期待される銘柄群

 フィックスターズ <3687> [東証P]は顧客企業のソフトウェア高速化ソリューションで高実績を有し、量子アニーリング方式の量子コンピューター分野にも積極的に踏み込んでいる。カナダのDウェーブ社とは早くから協業関係にある。業績も高速化ソリューションの好調とSaaS事業拡大が寄与して絶好調。22年9月期営業利益は従来予想の11億円から16億円(前期比65%増)に大幅増額している。

 テラスカイ <3915> [東証P]は米セールスフォース・ドットコムのシステムなどを主軸にクラウド導入支援ビジネスなどを手掛けるが、量子コンピューターを使った課題解決を目指す子会社Quemixを設立し、量子アニーリング分野を主軸に展開を図っている。Quemixは量子コンピューターを活用した材料計算ソフトの提供を目指しており注目を集めている。

 独立系資産運用会社のスパークス・グループ <8739> [東証P]は国内の中小型株投資で定評があるほか、香港や韓国などアジアにも子会社を設立し積極的な運用を図っている。同社は量子アニーリングの権威である東北大学大学院の大関真之教授らと共同で量子アニーリングマシンを活用した研究開発ソリューションを提供するシグマアイを設立、量子技術分野も深耕している。

 HPCシステムズ <6597> [東証G]は高性能コンピューターを使ったソリューション提供を主要業務とし、ビッグデータやAI分野における知見に優れ、官公庁との取引実績も豊富。量子コンピューターのアプリケーションを開発する専業ベンチャーと資本・業務提携し、量子化学計算領域の技術開発にも傾注している。業績も成長加速局面にあり21年6月期の最終45%増益に続き、22年6月期も前の期比11%増の4億9600万円と2ケタ成長を継続する見通しだ。

 このほか、関連銘柄としては耐量子コンピューター暗号技術分野で実績を持つユビキタス AIコーポレーション <3858> [東証S]、量子コンピューター向けビームスプリッターなどで実績を有するシグマ光機 <7713> [東証S]、量子コンピューター研究用デバイスとして微少信号測定器などを手掛けるエヌエフホールディングス <6864> [東証S]などをマークしておきたい。

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