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【特集】防災・減災&インフラ監視で大活躍、SAR衛星ビジネスで飛翔する株 <株探トップ特集>

SAR衛星による観測データを活用したビジネスが広がりつつある。国も独自のコンステレーション構築に前向きであり、関連ビジネスは拡大期を迎えそうだ。

―衛星の小型・低価格化と打ち上げコスト低下で利用促進の環境整う、国もデータ活用に前向き―

 今年3月、 衛星データ解析によるソリューション提供及び小型SAR衛星の開発・運用を行うSynspective(東京都江東区)がSOMPOホールディングス <8630> [東証P]傘下の損害保険ジャパンやSBIホールディングス <8473> [東証P]グループなどから、国内最大級となる119億円の資金調達を行い話題となった。同社は2026年ごろまでに30基の小型衛星を軌道に投入する計画で、得られた衛星データは国内外の政府や企業に提供される予定という。

 また、同じく3月には一部報道で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に伴い、「ウクライナが日本に人工衛星データの提供を求めていることが分かった」(日本経済新聞3月18日付朝刊)と報じられ、SAR衛星の観測データの提供が要請されているとした。日本の技術は高水準にあり、世界的な関心も高いが、株式市場ではまだ知名度が低い。ただ、今後大きな話題になる可能性が高く、注目しておきたい。

●SAR衛星とは

 SAR衛星の「SAR」とは、Synthetic Aperture Radar(合成開口レーダー)のこと。電磁波(マイクロ波)を地表に向けて照射し、跳ね返ってきた電磁波を受信・解析することで地表の状態を映像化する。

 SAR衛星は、これまでの太陽光を光源とする撮影技術と異なり、自ら電磁波を照射するため天候の影響を受けにくく、悪天候時や夜間でも地表面の情報を得ることができるのが特徴。また、観測対象の材質(自然物、人工物など)を識別できるため、定点観測により対象物の細かな変化を捉えることができる。

 一方、これまではシステムが複雑なため大型でコストが高く、また映像もノイズが多いという欠点があった。ただ、近年の技術革新で衛星の小型・低価格化が進み、また人工知能(AI)を活用することで映像解析技術も向上している。更に、衛星の小型化に伴い打ち上げコストも低下しており、SAR衛星の利用が進む環境が整いつつある。

●国が衛星コンステレーション構築に前向き

 国もSAR衛星の活用に前向きだ。5月20日に首相官邸で開催された宇宙開発戦略本部では、激甚化・頻発化する水害や土砂災害など災害発生時において、迅速に被災状況を把握するためには人工衛星が有力な手段の一つと位置づけ、「夜間や悪天候でも高頻度観測が可能な、我が国独自のSAR衛星コンステレーションを早期に構築することが必要である」としている。

 ここでいう衛星コンステレーションとは、複数のSAR衛星をたばねて一つのシステムとして統合的に運用すること。例えば、SAR衛星を軌道上に36基打ち上げ衛星コンステレーションを構築すると、地球全体の詳細な映像を約10分間隔で撮影し続けることが可能になるといわれている。

 こうした詳細な映像データが準リアルタイムで観測できるようになると、その用途は安全保障や防災、環境保全のような分野だけではなく、交通渋滞の緩和や農業支援、水資源の保全、保険や金融などさまざまな分野で、これまで以上に活用されることが期待されている。

 これを受けて、衛星データ活用ビジネスは今後の活発化が見込まれており、NTTデータ <9613> [東証P]が18年5月に総務省の4次元サイバーシティの活用に向けたタスクフォースで配布した資料によると、国内の衛星データの市場規模は30年代には約521億円になり、民間企業におけるマーケティングなどへの活用領域の拡大が実現されれば潜在的な市場は約963億円にまで広がると試算されている。

●広がりみせるSAR衛星関連ビジネス

 今後広がりが期待できるSAR衛星関連ビジネスだが、主な関連銘柄は以下のようなものがある。

 セーレン <3569> [東証P]は、福井県や東京大学などと連携し、超小型人工衛星の開発に取り組んでいるが、更に昨年9月にはSAR衛星用アンテナの量産プロセス構築において、Synspectiveと協業することで合意したと発表した。短期的には小型SAR衛星用アンテナの多数機組み立てを、長期的には小型SAR衛星全体の多数機生産の可能性検討を進めるとしており、SAR衛星の量産につながると期待されている。

 さくらインターネット <3778> [東証P]は昨年10月、開発・運用する衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」の最新版となるVer.3.0の提供を開始した。最新版では衛星データの売買を可能にする新機能を追加したことが特徴。新機能によって、ユーザーは衛星のセンサーの種類や取得時刻、関心領域(AOI)などを指定してデータを検索・購入できるようになり、衛星データの利用促進が期待されている。

 東京計器 <7721> [東証P]は今年6月、Synspectiveと小型SAR衛星の量産化に向けたパートナーシップを締結した。東京計器はこれまで、マイクロ波応用技術を生かしてSynspectiveの小型SAR衛星向けにマイクロ波パワーアンプモジュールを納入してきたが、パートナーシップにより新たにクリーンルームを備えた衛星組立棟を建設し、数年以内の量産開始を目指すとしている。

 NEC <6701> [東証P]は、三菱電機 <6503> [東証P]や宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと共同で、SAR衛星の小型化や高性能化、低価格化を図ってきたが、衛星データ事業でもインフラ維持管理や防災・減災分野のモニタリングサービスなどを提供している。今年7月6日には、SAR衛星によるリモートセンシングとAI技術を組み合わせて橋の異変を見つけ出す技術を開発したと発表。従来では発見が困難だった「異常なたわみ」をミリ単位の精度で検知し、橋の崩落につながる重大損傷を発見するという。

 一方、三菱電も災害発生時の被災状況把握や平時のインフラ監視などの衛星データ事業を展開。昨年6月にはパスコ <9232> [東証S]、アジア航測 <9233> [東証S]、スカパーJSATホールディングス <9412> [東証P]傘下のスカパーJSAT、日本工営 <1954> [東証P]などと共同で「衛星データサービス企画」を設立している。

 また、スカパーJSATと日工営にゼンリン <9474> [東証P]を加えた3社は20年10月にSAR衛星を活用した衛星防災情報サービス提供で業務提携。更にこれに九州大学発の人工衛星ベンチャーであるQPS研究所(福岡市中央区)を加えた4社は今年7月22日、SAR衛星のデータを活用したため池モニタリング実証で有効性を確認したと発表した。関連ビジネスは拡大期を迎えようとしており、銘柄の裾野も今後広がりをみせそうだ。

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