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【経済】【IR】副資材で国内市場を席捲、海外展開も加速へ モリト 一坪隆紀社長に聞く

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私たちの記憶にも新しい東京オリンピック・パラリンピック。未曾有の新型コロナウイルス感染拡大の影響で1年延期となり、ほぼ無観客となったことで、経済効果は当初の計画よりも減少し、約6兆1442億円だったと伝わっている。

一方で、多数の日本選手も活躍し人気沸騰となった「スケートボード・サーフィン」は関連市場で賑わいを見せている。その活躍の舞台を裏で支えたのが、同スポーツ用品のプロダクトを手掛ける、副資材の大手専門商社、モリト<9837>である。

株式市場では一時「スケボー銘柄」として注目された同社だが、実はアパレル資材だけではなく、様々な分野において活動領域を広げている。1908年ハトメ・ホックの仲買商として創業し、現在ではハトメ・ホック・マジックテープなどの服飾付属品やカメラ資材、自動車内装資材、靴用品の企画開発など生活にかかわるパーツを幅広く世界的に製造・販売している。

今回は、幅広いプロダクトを手掛ける同社の、今後の事業戦略やSDGsへの取り組みについて、モリトの一坪隆紀社長に聞いた。

一坪隆紀 プロフィール.


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1981年11月同社入社
1985年9月MORITO(EUROPE) B.V.出向
1996年4月同社営業統轄本部海外営業本部海外事業部長
2000年2月同社取締役営業統轄本部海外営業本部海外事業部長
2003年3月同社取締役海外営業本部海外事業部長
2004年2月同社常務取締役海外営業本部長兼海外営業本部海外事業部長
2004年12月同社常務取締役アパレル事業本部長
2005年12月同社常務取締役海外事業戦略室長
2009年12月同社常務取締役管理統轄本部長
2013年11月同社代表取締役社長(現任)


モリトとは.


3つの柱で安定した事業を展開

01. アパレルコンポーネント事業

カジュアル、スポーツ、フォーマル、ユニフォームなど様々なアパレルシーンに企画提案を行い、付加価値の高い資材を開発・供給。
海外拠点や生産工場との連携による海外生産サポート、企画段階でのアドバイスや工場メンテナンスサービスによる品質向上・改善サポートも展開している。

02. プロダクト事業

同社のパーツを活かしたフットウェア資材、文具やOA機器製品を開発・供給。
用途や機能面において、より生活環境や流行にそくした商品開発を進めている。
ブランド「is-fitR」では、中敷やシューケア、フットケア関連などが代表的な商品。
またBtoC事業も展開し、2017年には株式会社52DESIGNを設立。百貨店やセレクトショップを中心拠点にバッグ・雑貨を販売している。

03. 輸送機器事業

自動車、鉄道、航空機を中心にネット・エンブレムなどの関連パーツを開発・供給。
国内初の機械編みの伸縮性ネットを生産するなど、収納性や意匠性の高いものを安定的に供給している。


アパレルコンポーネント事業プロダクト事業輸送機器事業
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数多くの高シェアアイテム


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事業の強み.


欧米、そしてアジアに広がるグローバルネットワーク

どのようにして早期に海外進出を果たせたのか?

バブル期(1986年~1991年ごろまで)には、約470億円の売上高があった。バブル以降、国内市場はダウントレンドが続いている。国内市場だけを見ていると今後の成長は厳しいこともあり、国内外でのM&Aを推進し、現在ではグループ企業含め22社。世界ではまだまだ未開の市場、商品、分野も多く、それぞれのエリアで地に根の生えた営業を続けて利益を出し続ける。そして各エリアの部隊が連携してグローバル展開をする大手を攻め、商圏を拡大していくことが可能となった。これにより本当の意味で世界で戦える企業へ転換していく。

世界各地に広がるグローバルネットワーク


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取り巻く市場環境の変遷.


アパレル副資材の商流の現状はどうか?

商流について、日本は非常に複雑になっている。 我々もZARA・H&M・GAP<GPS>・ルルレモン<LULU>など海外のメジャーと取引をさせていただいているが、商流は非常にシンプルで世界的に相見積もりをとる。生地、内生地、外生地、金属のホック、テープ、あらゆるもの一つ一つに相見積もりをとり、商社を介在させない。

一方、国内では海外のように大量ロットで発注はせず、注文内容も多岐にわたるため、まとめ役の、商社機能が必要になる。ただし ファーストリテイリング<9983>のようなグローバル企業は、現地での産業育成を含め地産地消を実施する必要が出てきており、今後は必ず世界的な相見積もりをかける動きに代わってくると予想する。それらの変化に対しては、明治の創業以来、御用聞き的な役割を担ってきたBtoBの商流を改革させることで、我々の強みを発揮できると確信している。




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市場がグローバルに転換し、海外メーカーもコストメリットに加え、品質の改善もしてきている。これらの変化は脅威となるか?

アパレルの副資材においても、低価格で提供しているところも出てきており、その技術力も年々上がってきている。例えば、電子部品などの技術は非常に複雑なイメージで、アパレル副資材の技術はシンプルな印象をもたれるが、生地の厚みやボタンの種類に加え、一つ一つの縫製を機械で対応していくことはなかなかできることではない。安全基準を満たす高い技術力に加えて、万が一、縫製したボタンが取れてしまってお子様の口に入ってしまうなど、何かが起きた時にしっかりと対応できるか?信頼に値するか?世界基準でこれらに対応できている企業は少ない。

もちろんコスト面のみを要求される場合もあるが、我々としてはそのような市場には参入しない。


POINT

各国ごとの安全基準や品質基準は違っていて、その全ての基準をクリアする品質が求められる。世界的にはコストメリットのある資材を提供するメーカーは存在するが、規格や品質がしっかりしているものを提供できないと相手にされない市場でもある。


国内と海外、どちらの市場に重点を置くか?

我々のビジネスでは国内と海外は密接に連動しており、国内市場を考える際にも海外は切り離せない。国内のアパレル製品をみても、その90%以上が東南アジアを中心に海外で作られている。これまでは国内で作ったものを海外に輸出して現地で縫製することをしていたが、これからは調達→製造→販売を一括して取り込む戦略が必要になってくる。 欧米エリアでも同様の動きとなっており、これまでセントラルアメリカ(メキシコ、ブラジル)で製造されていたものが、品質やコストの点からアジアに流れてきている。あえて重点エリアを選定するならばアジア(日本含む)になる。

製造でいえば中国がある。ミドルハイをターゲットにしているが、地産地消といわれるとどこかで作らないといけない。そこは地政学リスクに鑑み戦略的な展開をしている。メイド・イン・ジャパンの付加価値を作る。商品だけでなく営業力や企業価値も含めて高める。

モリトの存在意義や価値を理解してもらえるような事業展開をしていく。

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「つなぐ、とめる、かざる」をメイン(原点)に業界のポジショニングを確立.


競合となる企業はあるか?

我々が提供するプロダクトは大きく分けるとアパレル系、車内装、雑貨系になる。
実は総合的にこのようなプロダクト群を提供している企業は他にない。

あまり知られていないが、それぞれの分野で高いシェアを誇る製品がいくつもあり、世界トップシェアのものもある。そして3つの事業で安定的に収益を出して、強い財務体質を保っていられる点も強み。コロナ禍においては非常に厳しい状況だったが、事業ポートフォリオの厚みから、業績の回復も早かった。





モリトの特徴として健全な財務体質が挙げられる、脈々と受け継ぐ秘訣があるのか?

浮気をしないこと(笑)。バブルがあっても、リーマン・ショックがあっても、我々の原点である「つなぐ・とめる・かざる」を基に事業展開し続け、幅広くやってきた。

加えて、その本業がなくならない物であるという点。服や靴は生活に絶対に必要なもの。そういうところを一途にやってきた。我々の貸借対照表(BS)をみてもらうと余剰金が200億円強となっているが、投資家の皆様からみると指摘がはいりそうですが、それだけまっとうに成長させてきた先人達には本当に感謝している。ただしそこに胡坐(あぐら)をかいていては絶対にダメで、スケートボードやキャンプ用品などへの投資も含めて、ここぞというときには攻めていく。

有価証券報告書ベースではセグメントがエリア(日本、アジア、欧米、その他)となっており、どこが上がっているのかが見えにくいのはなぜか?

M&Aなどを進めて、国内外の売上が増えている。我々は日本企業なので日本市場が一番大きい。ただし実質的には海外向けの売上高は、日本と同じくらいの水準まで成長してきた。

前段にもお話したように、世界市場は綿密に連携しており、輸出入を勘案すると最終的には日本市場が大きくなってしまう。それらを製品カテゴリーごとに管理するのは非常に難しいが、今後はカテゴリーごとの事業戦略を実行できるような組織体制にしていく。


次の100年に向けた事業戦略.


2008年に創立100周年を迎えた同社

中期経営計画の達成に向けて、具体的な戦略は?

現行のビジネス領域でも商品一つ一つに付加価値を加えてシェアアップしていくことはもちろん、M&Aも推進していこうと考えている。


コロナ禍でも沢山のお話をいただいたが、判断を間違える可能性もあったので割と静観していた。 また、今は社内の改革も推進しており、来年6月には事業会社分割も予定している。これまでの経験上、M&Aは買収した後が本当に大事。特に買収した後の2~3年は非常に大事な時期になる。まずは物理的なマンパワーも考慮して、体制を整えたうえで、アグレッシブに行動していこうと考えている。

M&Aの判断基準は?

M&Aはよく失敗をして学ぶものがあると言われるが、私は10戦10勝でなくてはならないと考えている。これまで沢山の方々と出会ってきたが、最後の最後でピンとくる感覚的なものがあって、それを物凄く大切にしている。私が代表になってから3社のM&Aを進めたが、いずれも順調にシナジーを発揮できている。





これまでBtoBをメイン領域としてビジネス展開されてきたがBtoCも強化していくのか?

BtoCは全体の2割程度の売上を目標としている。(売上高が目標500億円だとすると100億円)

事業展開する目的は大きく分けて2つ。一つは、BtoCの事業展開を通じて、BtoBのお客様が言っている言葉の背後に何を望んでいるか、どこに悩んでおられるのかを本当の意味で理解できるようになること。もう一つは社員がブランド育成やそのための市場調査などBtoBとは違うワクワク感を持って仕事に取り組める環境を作ることにある。「つなぐ、とめる、かざる」をベースに安心、安全そして機能的なことなどを本気で考えるBtoCビジネスをやるということは非常に大切なことだと考えている。

POINT

デザイン性のある高価格帯バッグを中心に扱う52DESIGNや、防水素材バッグのZATなど、オンライン上での評価の高い強いブランドを持つ。

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イノベーションを起こす組織改革.


従業員のアイデアを具現化する仕組みや、より良い環境で働ける仕組みはあるか?

事業会社であるモリトジャパンを来年6月に分社化する準備を進めている。
社員一人一人が日本市場で一生懸命やっても、実は役割が終わっている市場や製品が存在する。それを担当する本人たちが自覚することが一番大切だと思う。分社化をすることにより、より自分達の仕事に対して本気で悩み、切実に現在地を感じることで、柔軟なアイデアが生まれてくる組織体を醸成するのが目的。ベンチャー的な発想で仕事に取り組んでもらうことで、新しいことを生み出せるのではと考えている。

環境課題を中心にSDGs貢献度が高い企業へ.


同社は「サステナブル、エコにこだわったモノづくり」の一環 として、環境配慮型の商品開発に力を入れている。

2021年:環境にやさしい新製品 の開発と販売に向けた取り組み「C.O.R.E.」(コア)を始動
http://www.morito.co.jp/core/

第一弾として、廃棄漁網をリサイクルしたナイロンペレットを使用した服飾素材の開発、販売を行っている。

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モリトのSDGsへの対応はなぜ早いのか?

まず一つは海外での経験が生きている。
欧米では環境への意識も高く、我々も世界レベルでの取り組みを行っていきたいと考えている。また、時代が変化している中で、特にコロナの影響もあり、働き方が大きく変わってきている。正直、もし私がオーナー社長であったら違う選択をしたかもしれないが、100年以上の歴史の最先端をリードさせていただいている立場にあり、今後もモリトグループの歴史を後輩たちにどんどん継承していってほしいと考えるようになった。その中で、個人だけではなく会社として未来に向けて何かをやっていかなくてはならないと考えたときに、正しい決断をし続けていく。特に環境や健康については今動くべきだと考えている。


投資家との対話で得た今後の飛躍ポイント

機関投資家の方々にご指摘いただくことは、知名度。
これまでは、知られない黒子の企業であることの美徳に価値があった。

しかしこれからは「モリト」の事業内容をしっかりと知ってもらうことがグローバルで事業展開していくには不可欠な要素と考えている。モリトが提供する一つ一つの製品には、企業理念をくみした想いが詰まっており、その安心安全な製品、その製品を提供している企業のブランド価値を高めるコミュニケーションをとっていく必要がある。そのためこれからも配当性向も安定的に高い基準をキープしたいと考えている。
モリトには節約の美徳がある。また、石橋をたたいて割れそうだったら渡らない。リスクを負わないことも大切なことではあった。今後は責任の所在を明確にしたうえで、リスクを取ってビジネス展開をしていくことも大切だと感じている。

投資家の皆さんへメッセージ

今後、当社の魅力や価値をよりわかっていただけるようなアプローチをしていく。面白い会社、まだまだいける!という会社に生まれ変わっていく。ファンダメンタルの部分も我々の努力でBSをスリムにしていき、株主に対して継続的にアピールをしていく。今後の事業展開にぜひとも注目していただきたい。

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インタビューを終えて/取材考察.


01.  国内外のアパレル副資材のみならず、輸送関連内装、日用雑貨など幅広い市場においてグローバルニッチトップを確立。
02.  グローバル戦略において肝となる、メイド・イン・ジャパンのクオリティー。
コスト面においては、今後貿易摩擦のあつれきなどにも耐えながら、継続調整し、付加価値を提供していく。
03.  2022年6月を予定している事業会社の分社化により、商社としての役割をより一層明確化し、事業拡大につなげられるかどうかに注目。
04.  SDGsへの積極的な取り組み、理念に基づいたM&Aによって、次の100年を創り上げることに期待したい。



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