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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―パンデミックリスクへの警戒-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第29回 パンデミックリスクへの警戒

●三度の株価調整局面

 筆者が発行している会員制レポート(TRIレポート)で株価下落を強く警告したことが2018年初以降に3回あります。1回目は2018年1月25日執筆号です。「株価高値波乱局面への移行」と明記しました。NYダウの上昇スピードが速くなりすぎていることから株価調整不可避と判断しました。2回目は2018年10月11日執筆号です。レポートタイトルに「長期上昇相場終局=高値波乱への移行」と明記しました。潮流が転換し、2007年6月以降の株価急落局面と類似した株価下落が生じる可能性を指摘しました。

 そして、3回目が本年1月23日執筆号です。RSI指標等で株価買われ過ぎのシグナルが出ていること、米中貿易戦争第一段階合意署名で当面の好材料が出尽くしたこと、 新型コロナウイルス感染拡大が観測されていることが根拠でした。その直後に株価は急落しました。

 その後、2月13日執筆号を記述した時点では、ウイルス問題の早期収束観測が浮上して株価が大幅に反発していましたが、投資戦略節タイトルを「再度の株価調整に警戒」とし、再度の株価下落可能性を警告しました。このことは本コラム前号に「今後、日本において感染拡大が確認されると、金融市場の受け止め方が、厳しいものに転じる可能性があります」と指摘したとおりです。

 実は、2018年初以降に発生した3度の株価調整局面が、上記の株価下落警告の直後に観測されています。 日経平均株価の下落率は2018年初が15.7%、同年10~12月が22.5%でした。今回は、現時点で13.3%の下落率を記録しています。

●感染者数を隠ぺいする安倍内閣

 2月25日に米国疾病対策センター(CDC)国立予防接種・呼吸器疾患センター所長が、米国の地域社会で感染が広がるコミュニティ感染について「起こるかどうかの問題ではなく、いつそれが起こり、この国で重症者が何人出るかの問題になった」と述べました。さらに、新型コロナウイルス感染の世界的流行=パンデミックのリスクが高まっていると指摘しました。100年前の1918~19年にかけて「スペインかぜ」の世界的流行がありました。このときの感染者は5億人、死者は5000万人から1億人と推計されています。

 スペインかぜと比較すると新型肺炎での致死率は低く、衛生環境、医療技術にも大きな相違がありますから、過度の警戒は不要と思われますが、感染拡大が経済活動に強い下方圧力を与えることは避けられません。

 日本では安倍内閣が全国の小中高の休校を要請しましたが、これまでの対応の遅さ、緩さと重ね合わせてちぐはぐな印象を否めません。3711人もの乗員・乗客を狭い船内にとどめて爆発的感染を誘発する一方で、湖北省以外の中国からの人の移動をまったく制限しなかったことに整合性はありません。感染確認にもっとも有効な方法はPCR検査ですが、安倍内閣は検査忌避の姿勢を示してきました。感染確認者数を抑制するために検査を忌避しているのだと思われますが、感染者が特定されないために、その感染者が感染を爆発的に拡大させている可能性が高まっています。

●消費税大増税大不況への移行

 2月17日発表の昨年10~12月期実質GDP成長率(日本)は年率換算で-6.3%になりました。2014年増税直後の-7.4%以来の大幅マイナス成長です。ただし、2014年は4.1%成長のあとのマイナス成長でした。今回は0.5%成長のあとの大幅マイナス成長です。駆け込み消費がなかったのに増税後の落ち込みが極めて急激になっています。

 日銀の黒田総裁は昨年9月の会見で、「大きく経済が影響を受けるとはみていない」と述べ、本年1月の会見では、「日本経済を支える個人消費の減少は一時的で増加基調は維持されている」と述べてきました。完全に日本経済の実態を見誤っています。黒田総裁は国民経済の健全な発展ではなく、財務省が求める消費税大増税を推進することに軸足を置いているのだと見られますが、これでは日本経済の凋落を避けることができません。

 安倍内閣は2月20日の月例経済報告で「景気は緩やかに回復している」と宣言しましたが、実態の日本経済は消費税大増税大不況に移行しています。GDP統計、景気動向指数、鉱工業生産指数などが日本経済の不況入りを完全に裏付けています。

 ここにコロナウイルス感染拡大の影響が重くのしかかります。東京五輪開催は困難な情勢に移行しつつありますが、安倍内閣は影響を軽微に見せるために無節操なイベント自粛強要に突き進んでいます。しかし、これも経済を急激に悪化させる重大な要因になります。

●『最強の資産倍増術』公刊

 日本の株価調整はすでに中規模調整の範疇に移行しています。今後はコロナウイルスの感染拡大がどの程度広がるのかを注視する必要があります。世界的流行=パンデミックに移行する場合に、世界経済・金融市場の調整が長期化、深刻化する恐れが生じてきます。

 1月24日執筆の本コラム冒頭に「金融市場の緊張感が次第に高まりつつあります」と記述しましたが、その様相が強まりつつあります。2012年12月の第2次安倍内閣発足後の日本の実質GDP成長率平均値(前期比年率)は+0.98%になりました。これは民主党政権時代の+1.69%を大幅に下回るものです。2012年11月以降、株価は上昇しましたが、日本経済は超低迷を続けて現在に至っています。

 国内債券利回りはゼロ近辺で推移しています。国民の大切な老後資金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は株価下落局面で機動的なヘッジをかけなければ巨大損失に直面します。今回の株価下落局面でも機敏な対応が取られなかったのではないかと危惧しています。

 2013年以来、会員制TRIレポートの年次版を一般公刊してきました。その2020年度版を3月8日に公刊します。『低金利時代、低迷経済を打破する 最強の資産倍増術』(コスミック出版)です。「消費税増税、オリンピック不況、チャイナ(コロナウイルス)リスク、大波乱必至の日本と世界!老後不安を生き抜き、資産家になるための『最強・常勝五箇条の極意』を本音解説。高パフォーマンスを狙う厳選日本株25銘柄公開」と帯に記しています。2月29日よりamazonで予約受付開始になりますので、ぜひご高覧ください。

(2020年2月28日 記/次回は3月14日配信予定)


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