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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 ―金融相場から業績相場へ―

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第54回 金融相場から業績相場へ

●想定通りの乱気流

 春の乱気流と表現してきましたが、言葉通りの展開になっています。昨年1月から3月の展開は「暴落」でしたが、今年の場合は「高値波乱」です。最大の相違は株価急落の要因が存在するのかどうかです。1年間の上げ潮相場を経験してきましたから、息をつくことが必要です。上昇のスピードが速すぎるとき、そのスピードに対する調整が入ることがあります。これを「スピード調整」と表現します。

 昨年の場合、筆者が発行しているレポートに、1月下旬以降の中規模調整の可能性を明記しました。株価上昇の行き過ぎが生じていること、米中通商交渉の第一段階合意が署名され、材料出尽くしになったこと、新型コロナウイルス問題が発生したことが根拠でした。このときの調整は「高値波乱」ではなく「中規模調整」と予測したのです。

 そのコロナ暴落が1ヵ月続きましたが、暴落後の1年間は猛烈な反発に転じました。コロナの全体像が見えてきたことに加えて、経済の落ち込みをカバーするに十分な政策対応が示されたことが主因です。その先頭を切ったのがトランプ前大統領でした。そのトランプ氏も存在感が確実に低下し、世の中の移り変わりの速さを感じさせます。

 それはともかく、1年近くの株価急騰の実現により、金融市場が小休止を求めるタイミングに差し掛かったと言えるでしょう。乱高下する株式市場に対しては、的確な戦術で対応しないと思わぬ大損害を被ってしまいますから注意が必要です。

●金融政策運営への警戒感

 日経平均株価は、1月14日から29日まで1350円、4.7%下落。1月29日から2月16日まで3085円、11.2%上昇。2月16日から3月5日まで2406円、7.8%下落しました。文字通りのジェットコースター相場です。相場変動の大きな背景に金融政策運営への警戒感浮上があります。2月24日に米国FRBのパウエル議長が議会証言を行いました。議会証言は金融緩和政策を今後も長期間維持することを示唆するものでした。このパウエル証言を受けてNYダウが3万2000ドルを突破して史上最高値を更新しました。

 しかし、その翌日には米国長期金利が急上昇して、株価は一転して急落しました。巨大な経済政策発動で米国経済は確実に改善の方向を示しています。このなかでバイデン新政権は追加の経済対策を策定し、議会を通過させました。3月11日、総額1.9兆ドル(約200兆円)の対策が成立しました。米国経済はさらに強い上方圧力を受けることになるでしょう。

 この状況下で、経済刺激政策が過大ではないかとの指摘が浮上しています。財政金融政策の過大な発動は経済のインフレ圧力を高めることになります。インフレ懸念が強まれば、FRBは行動せざるを得なくなります。米国金融政策の転換。これが2021年のキーワードになります。この問題を金融市場が取り扱い始めたのだと解釈することができます。

 まだ序章の段階ですが、この問題が繰り返し考察の対象になると予想されます。

●FOMCを注視

 米国金融政策に焦点が当てられるとき、私たちは3つのデータ、イベントに関心を注ぐ必要が生じます。(1)米国雇用統計、(2)米国物価統計、(3)FOMC(連邦公開市場委員会)です。3月5日発表の2月雇用統計では雇用者が38万人増加しました。米国経済の回復が持続していることが確認されました。

 それでも、米国の雇用状況は依然として緩んだ状態にあります。昨年4月の米国雇用者数は2236万人も減少しました。失業率は4.4%から14.7%に跳ね上がったのです。その後の10ヵ月間に雇用者数は1289万人増加しました。しかし、947万人の労働者が復職できていません。失業率は今年2月でも6.2%水準に高止まりしています。

 2月24日の議会証言でパウエル議長は「失業が高水準にあるため、FRBの政策は緩和的が適切と考える」と述べています。このことから、米国金融政策が直ちに急変するリスクは限定的と思われます。それでも警戒が必要なのは、FRBの基本スタンスにわずかでも変化が生じると金融市場がそれを重く受け止めるからです。

 前回、FRBが利下げから利上げに転じたのは15年12月のことでした。この政策転換の先駆け現象だったと言えるのが、13年5月のバーナンキFRB議長の発言でした。利上げ着手の2年半前に方向転換を示唆する発言が表出して金融市場にショックを与えたのです。

 このような「先駆け現象」としての変化が21年に表出する可能性を否定できません。まずは、3月16~17日のFOMCを注視しなければなりません。

●コロナと五輪の行方

 それでも足もとでは株式市場の基調が極めて強いという現実が残存します。バブル期以来の過剰流動性が供給されているからです。水が高いところから低いところに流れるように、お金は利益を生み出す可能性に引き寄せられて動きます。動きの取れるお金が少なければ価格変動は抑制されますが、うなりを上げるほどの過剰流動性が瞬時に国境を越えて動き回るのです。

 各国のインフレ指標は落ち着いていますが、物価が全面的に落ち着いているとは言い切れません。原油価格や鉱物資源価格の騰勢が際立ち始めています。株式市場においても、これまではコロナによる経済社会の変質に伴って業績を拡大させることが予想される、新しいテクノロジー企業に資金が集中し、時価総額を膨張させました。しかし、この動きが一巡して、今度は実際に世界経済が拡大することに連動する企業業績拡大に着目する資金移動が観察され始めています。

 米国ではナスダック市場が調整する一方でNYダウ平均が高値更新を続けるという変化が観察され始めています。いわゆる「業績相場」の色彩が表出し始めていると言えるでしょう。

 金融市場は循環変動を繰り返します。金融相場は業績相場に移行し、その上で次のステージに転換することになります。コロナ問題の着地点が依然として見えないため、現時点で予断を持つことは控えるべきですが、中長期の展望に基づく戦略構築が重要性を増大させ始めています。

 そして、日本の場合には五輪を目前に控えるなかで、コロナ感染問題がどのように変化するかがクリティカルに重要になることを銘記しておくべきでしょう。

(2021年3月12日記/次回は3月27日配信予定)


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