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【特集】最後の砦OPECプラスでも価格抑制は不可能、クリーン・エネルギーを夢見る消費国が直面するリスク <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 先週の石油輸出国機構(OPEC)プラスの閣僚会合は、7月の増産幅を日量64万8000バレルに拡大することを決定した。従来は同43万2000バレルだった。8月も日量64万8000バレルほど増産目標を拡大し、コロナショック後に導入された過去最大規模の協調減産の終了を9月から8月に前倒しする。石油価格の高騰が続いていることから、消費国に手を差し伸べた。

●たった11分の閣僚会合、驚きの軌道修正

 増産幅の拡大合意は驚きだった。欧州連合(EU)がロシア産石油の海上輸入を停止することで合意したことからOPECプラスが欧州を支援する必要が生じたとはいえ、ウクライナ危機後に何もしてこなかった主要産油国の舵取りが変化するとは思えなかった。欧州各国に対しエネルギーを武器として利用しているロシアは今回の合意について、すんなりと頷いたのだろうか。石油価格の高騰に対して特に対応してこなかったOPECプラスがなぜこのタイミングで軌道修正したのか理解できない。

 調査会社エナジー・インテリジェンスによると、今回の閣僚会合は11分で終了した。前回、前々回の会合はたしか15分程度だったはずだが、それよりもさらに会合時間は短くなったようだ。閣僚会議が始まる前の段階で十分な意見調整が行われた結果だと思われるが、今回の合意からすると協調減産が終了した後の生産調整についても大枠が決まっていると想定するのが妥当ではないか。次回の6月30日の閣僚会合で9月以降の生産調整について発表があるだろう。

●リセッションを回避するための最後の砦

 石油の供給不足が強まっているなか、サウジアラビアとロシアが舵を取るOPECプラスはどこに向かうのだろうか。4月時点でOPECプラスの生産量は目標に対して日量260万バレル不足しているとの指摘があり、足元で乖離はおそらく同300万バレルに迫っている。需給バランスをできる限り維持し価格高騰を抑制するためには、新たな枠組みが必要ではないか。現在の水準が続けば消費国が疲弊し、世界経済は景気後退(リセッション)へ向かうだろう。リセッションは産油国にとって無用な価格変動を招くリスクがある。

 ただ、EUの禁輸合意によってOPECプラスへの依存度が高まるのは必然だが、比較的余裕のあるサウジやアラブ首長国連邦(UAE)でも増産余力は合計で日量200万バレル程度とみられており、原油相場を安定させるには心もとない規模しか残されていない。これを使い切ると後がないほか、世界的には原油以上に石油製品が不足している。石油製品はOPECプラスの守備範囲外である。カーボン・ニュートラルの弊害で、石油市場の上流から下流まで投資が不足しており、中東など主要産油国だけが追加投資して解決する問題ではない。

 OPECプラスは石油市場の最後の砦である。自由主義経済からかけ離れ、仲違いによって余計な価格変動を巻き起こし、米国が敵視する化石のようなカルテルではあるが、原油市場では無益な価格変動を抑制してきた実績がある。しかし、脱ロシアや脱炭素など抗えない価格変動要因によって、この最後の砦は突破されようとしている。この事実を最も重く受け止めているのはおそらくOPECプラスである。クリーン・エネルギーを夢見る消費国はこの危うさに気づいていない。というよりも、無関心である。最後の番人として9月以降も尽力するのか、あるいは新たな方針が示されるのか、今月末の会合を待ちたい。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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